一筆の農地を四人に分割して売渡した場合において、各人に対する売渡区域が売渡通知書に特定されていなくても、その後に右農地が売渡通知書の趣旨に従つて分筆登記され特定されたときは、さきの売渡処分が無効であるとはいえない。
農地売渡通知書によつて売渡区域が特定されていない場合に売渡が無効でないとされた一事例
自作農創設特別措置法20条
判旨
行政処分の通知書に目的物の特定を欠く違法がある場合でも、その後の事情により特定がなされれば瑕疵は治癒され、行政庁が自ら無効として取り消すことは許されない。
問題の所在(論点)
行政処分の通知において目的物の特定が不十分であったという形式上の瑕疵が、その後の事情変更(分筆登記の完了)によって治癒され、処分の効力が維持されるか。
規範
行政処分の通知書において目的となる区域が特定されていないことは違法であるが、当該違法が直ちに処分を当然無効にするとは限らない。処分後に目的物の分筆登記等が行われ、通知書の趣旨に沿って区域が客観的に特定された場合には、当該処分の瑕疵は治癒されたものと解するのが相当である。
重要事実
上告人らに対し、農地の売渡処分が行われた際、売渡通知書には将来の分筆を予定した新地番と面積が記載されていたが、当時はまだ分筆登記がなされておらず、各人の受領区域が未確定であった。しかし、その後、処分から約3年が経過し、かつ被上告人(行政庁)による本件取消処分がなされる前に、通知書の趣旨に従って分筆登記が完了し、客観的に区域が特定されるに至った。
事件番号: 昭和29(オ)377 / 裁判年月日: 昭和31年2月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分に瑕疵がある場合であっても、その瑕疵が重大かつ明白でない限り、当該処分は当然無効とはならず、適法に訴訟等で取り消されない限り有効なものとして取り扱われる。 第1 事案の概要:上告人は、大正10年頃から昭和10年頃まで賃借権に基づき本件土地を耕作していた。自称によれば、昭和10年にDへ転貸し…
あてはめ
本件売渡処分時、通知書上は区域が明確ではなかったが、売渡自体は農地全部を対象としており、単に各人の取得範囲が未分筆であったに過ぎない。その後、実際に通知書の内容通りに分筆登記がなされたことで、当初の不明確さは解消されている。このように瑕疵が完全に治癒され、かつ処分から長期間が経過している状況下では、処分行政庁が自らの過誤による瑕疵を理由に、当該処分を当然無効として取り消すことは信義則上も許されない。
結論
本件売渡処分の瑕疵は治癒されており、当然無効とはいえない。したがって、無効を前提としてなされた被上告人の取消処分は違法である。
実務上の射程
行政上の法的安定性や相手方の信頼保護の観点から、処分の「瑕疵の治癒」を認めた重要な先例である。答案上は、当初の違法が重大明白といえるか、またはその後の事情により違法性が解消されたといえるかの文脈で、信義則や信頼保護の観点を含めて活用できる。
事件番号: 昭和38(オ)1399 / 裁判年月日: 昭和41年4月26日 / 結論: 棄却
自作農創設特別措置法による宅地附帯買収および売渡の対象となつた二筆の宅地の各一部が第三者の賃借地であつたことが判明し、しかもその賃借地の境界が不明瞭なため、知事が全部の売渡処分を取消した場合につき、そのうち一筆についての取消処分は適法、他の一筆についての取消処分は違法と判断しても、判示の事情のもとにおいては、いずれも相…
事件番号: 昭和34(オ)672 / 裁判年月日: 昭和36年1月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分を行った旨の通知が、それ自体として新たな権利義務の変動を生じさせる公権力の行使に当たる場合には、抗告訴訟の対象となる行政処分に該当する。 第1 事案の概要:上告人(行政庁側)は、昭和23年に自作農創設特別措置法に基づき被上告人らに対して農地売渡計画を決定し、売渡通知書を交付した。しかし、昭…
事件番号: 昭和29(オ)550 / 裁判年月日: 昭和31年4月13日 / 結論: 棄却
昭和二四年法律第二一五号による農地調整法改正前においても、同法第四条によつて市町村農地委員会が行う農地等の所有権、賃借権等の設定、移転等の承認は同委員会の自由な裁量に委せられていたものと解すべきでない。
事件番号: 昭和32(オ)116 / 裁判年月日: 昭和33年11月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分に瑕疵がある場合でも、その後に正当な手続を経て瑕疵が補完され、処分時において適法な状態が確保されているならば、当該処分は有効なものとして存続し得る。 第1 事案の概要:農地委員会が土地の買収計画を定め、異議申立を却下した後、上告人は県農地委員会へ訴願を提起した。県農地委員会は法定期間経過後…