判旨
行政処分に瑕疵がある場合でも、その後に正当な手続を経て瑕疵が補完され、処分時において適法な状態が確保されているならば、当該処分は有効なものとして存続し得る。
問題の所在(論点)
買収計画が確定する前に買収令書が発行された場合、その後の手続によって買収計画が適法に維持・確定したならば、当該買収処分の瑕疵は治癒され有効となるか。
規範
行政処分の効力は、処分の前提となる先行手続に不備(瑕疵)があったとしても、その後の手続の進行によって実質的な適法性が確保され、相手方の権利保護に欠けるところがない場合には、改めて当初から手続をやり直すことなく、当該処分の有効性を維持することができる。
重要事実
農地委員会が土地の買収計画を定め、異議申立を却下した後、上告人は県農地委員会へ訴願を提起した。県農地委員会は法定期間経過後の訴願を受理して買収計画取消の「宥恕裁決」を一度は行ったが、後に県知事が再議に付した結果、当該宥恕裁決を取り消し、改めて訴願棄却の裁決(計画維持)を行った。一方、県知事は買収計画の確定前である宥恕裁決以前に「買収令書」を発行し、当初は受領拒否されたものの、最終的に昭和26年に交付に代わる公告を行った。上告人は、買収計画確定前に令書が発行された手続上の違法を主張した。
あてはめ
本件では、当初の宥恕裁決により買収計画が一度は否定されたものの、その後の再議裁決によって当該取消裁決自体が取り消され、改めて訴願棄却(買収計画の維持)が決定されている。これにより、当初の買収計画を基礎とする法的状態が回復したといえる。また、買収令書は日付こそ計画確定前のものであるが、実際には昭和26年に交付に代わる公告という適法な形式でなされており、実質的に買収計画の確定を前提とした手続が踏まれている。したがって、先行する手続上の不備は解消されており、改めて買収計画の樹立や令書の発行をやり直す必要はない。
結論
買収計画が確定し、かつ令書の公告が適法になされた以上、本件買収処分に違法があるとはいえず、有効である。
事件番号: 昭和33(オ)446 / 裁判年月日: 昭和36年5月4日 / 結論: 破棄差戻
一 村農業委員会の議決を経ないで作成された農地買収計画が公告され、所定の期間縦覧に供され、右期間の満了前に原案どおり買収計画を樹立する旨の委員会の議決が成立し、しかも農地所有者が計画の樹立を知り行政上の不服手段を尽し得たという事実関係の下においては、たとえ、公告当時においては計画樹立につき委員会の議決がなされていなかつ…
実務上の射程
行政処分の「瑕疵の治癒」を認めた事例として機能する。司法試験では、処分の前提手続に瑕疵がある事案において、その後の追完手続や状況の変化により、処分を維持させることが合理的である(処分の取消しが無益である)と論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和31(オ)235 / 裁判年月日: 昭和32年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地委員会は、遡及買収申請に資格上の瑕疵がある場合であっても、自創法6条の5に基づき職権で買収計画を定めることができるため、当該買収処分が当然無効になることはない。 第1 事案の概要:上告人とDとの間には農地の賃貸借契約が存在しており、当該契約は適法に解約されていなかった。その後、Eが当該農地につ…
事件番号: 昭和30(オ)138 / 裁判年月日: 昭和31年5月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分が法律上の手続規定に違反してなされた場合であっても、その瑕疵が当然に処分を無効とするものではなく、出訴期間内に取り消されない限り、公定力により有効なものとして取り扱われる。 第1 事案の概要:自作農創設特別措置法に基づき農地の買収処分が行われた際、買収令書が真の所有者である上告人ではなく、…
事件番号: 昭和31(オ)762 / 裁判年月日: 昭和33年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】登記簿上の所有者を対象とした農地買収処分は、真実の所有者と異なる場合であっても当然無効とはならず、出訴期間内に取消訴訟を提起しない限り、その効力を争うことはできない。 第1 事案の概要:上告人の所有地であった本件農地につき、登記簿上はD合資会社の所有名義となっていた。政府は登記に基づき、D社を対象…
事件番号: 昭和32(オ)1096 / 裁判年月日: 昭和36年7月14日 / 結論: 破棄差戻
農地買収計画の異議棄却決定に対する訴願の提起があるにかかわらず、その裁決を経ないで、県農地委員会が訴願棄却の裁決があることを停止条件として右買収計画を承認し、県知事が土地所有者に買収令書を発行したという瑕疵は、爾後、訴願棄却の裁決があつたことによつて治癒されたと認むべきである。