農地買収計画の異議棄却決定に対する訴願の提起があるにかかわらず、その裁決を経ないで、県農地委員会が訴願棄却の裁決があることを停止条件として右買収計画を承認し、県知事が土地所有者に買収令書を発行したという瑕疵は、爾後、訴願棄却の裁決があつたことによつて治癒されたと認むべきである。
農地買収計画の異議棄却決定に対する訴願の提起があるにかかわらず、その裁決を経ないで爾後の手続を進行させた瑕疵が、治療されたと認められた事例。
行政事件訴訟特例法1条,自作農創設特別措置法7条,自作農創設特別措置法8条,自作農創設特別措置法9条
判旨
農地買収計画に対する訴願裁決を経ずに買収手続を進行させた違法は、買収処分の無効原因とはならず、事後に棄却裁決がなされれば瑕疵は治癒される。
問題の所在(論点)
行政処分(農地買収処分)において、先行する不服申立手続(訴願)の裁決を待たずに後続の手続を進行させた手続的瑕疵が、その後の棄却裁決によって治癒されるか。また、かかる瑕疵が処分の無効事由となるか。
規範
行政処分に手続き上の瑕疵が存在する場合であっても、その瑕疵が処分の無効原因となるほど重大なものではなく、かつ、事後的に本来行われるべきであった適正な手続き(決定・裁決等)が完了したときは、その処分をあえて取り消す必要性は消滅し、瑕疵は治癒されると解するのが相当である。
重要事実
兵庫県農地委員会が本件買収計画を承認し、県知事が買収令書を発行した当時、当該買収計画に対する訴願裁決はまだなされていなかった。しかし、その後の手続過程において、当該訴願を棄却する旨の裁決が実際に行われた。原審は、裁決前の手続進行は重大な瑕疵であり治癒されないとして買収処分を無効としたため、上告された。
事件番号: 昭和36(オ)732 / 裁判年月日: 昭和38年12月24日 / 結論: 棄却
一 農地買収の時期が売渡の時期より後であつても、買収処分は無効とはいえない。 二 農地の買収、売渡計画の買収、売渡の時期の変更につき公告手続を経ないでした買収処分も無効ではない。
あてはめ
本件における買収計画の承認は、訴願棄却の裁決があることを停止条件としてなされたものであった。その後、実際に訴願棄却の裁決が行われている。そうであれば、裁決前に手続を進行させたという手続上の不備は、実質的に適正な判断がなされたことによって補完されたといえる。したがって、事後の棄却裁決により、先行した手続の瑕疵は治癒されたと判断される。原審がこれを治癒されない重大な瑕疵とした点は、自創法等の解釈を誤ったものである。
結論
行政処分の手続的瑕疵は、事後の適正な手続の完了により治癒される。本件の買収処分は、訴願棄却裁決により瑕疵が治癒されたため、当該瑕疵のみをもって無効とすることはできない。
実務上の射程
行政手続の瑕疵の治癒に関するリーディングケース。答案では、手続不備があるものの実質的に処分の妥当性が担保された場合に、行政過程の安定性や経済性の観点から「瑕疵の治癒」を認める際の根拠として用いる。ただし、無効原因となるほどの重大明白な瑕疵(本件における他の事実誤認等)がある場合は別途検討が必要である点に注意する。
事件番号: 昭和32(オ)116 / 裁判年月日: 昭和33年11月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分に瑕疵がある場合でも、その後に正当な手続を経て瑕疵が補完され、処分時において適法な状態が確保されているならば、当該処分は有効なものとして存続し得る。 第1 事案の概要:農地委員会が土地の買収計画を定め、異議申立を却下した後、上告人は県農地委員会へ訴願を提起した。県農地委員会は法定期間経過後…
事件番号: 昭和33(オ)446 / 裁判年月日: 昭和36年5月4日 / 結論: 破棄差戻
一 村農業委員会の議決を経ないで作成された農地買収計画が公告され、所定の期間縦覧に供され、右期間の満了前に原案どおり買収計画を樹立する旨の委員会の議決が成立し、しかも農地所有者が計画の樹立を知り行政上の不服手段を尽し得たという事実関係の下においては、たとえ、公告当時においては計画樹立につき委員会の議決がなされていなかつ…
事件番号: 昭和36(オ)1072 / 裁判年月日: 昭和37年7月12日 / 結論: 棄却
所有者の代表者の表示を誤つてした農地買収処分も無効ではない。
事件番号: 昭和36(オ)1320 / 裁判年月日: 昭和38年12月26日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】行政処分が当然無効となるための「瑕疵の明白性」は、処分の外形上客観的に、誤認が一見して看取できるか否かにより決すべきであり、行政庁の調査怠慢の有無は直接関係しない。 第1 事案の概要:行政庁が、被上告人の自作地である農地を小作地であると誤認し、農地買収処分を行った事案。原審は、本件農地が実際には自…