一 農地買収の時期が売渡の時期より後であつても、買収処分は無効とはいえない。 二 農地の買収、売渡計画の買収、売渡の時期の変更につき公告手続を経ないでした買収処分も無効ではない。
一 農地買収の時期が売渡の時期より後であつた場合の買収処分の効力 二 農地の買収売渡計画の買収売渡時期の変更につき公告手続を経ないでした買収処分の効力
自作農創設特別措置法6条1項,自作農創設特別措置法6条2項,自作農創設特別措置法6条5項,自作農創設特別措置法9条,自作農創設特別措置法18条4項
判旨
行政処分に手続上の瑕疵がある場合であっても、それが関係人に不測の不利益を及ぼすものではなく、権利の円滑な変動を妨げるおそれもない特段の事情があるときは、当該処分を当然無効ならしめるほどの重大な違法とはいえない。
問題の所在(論点)
農地の買収処分に先立って売渡処分がなされたこと、および買収時期の変更に伴う公告手続の欠如という手続上の瑕疵が、買収処分を無効ならしめる「重大な違法」に該当するか。
規範
行政処分の無効事由となる瑕疵は、当該違法が重大かつ明白であることを要する。もっとも、手続上の違法については、その瑕疵が処分によって保護されるべき関係人の権利・利益を実質的に侵害するものでない限り、当然無効とはならない。具体的には、瑕疵によって関係人に不測の不利益を及ぼさず、かつ権利の変動を妨げるおそれがない場合には、当該瑕疵は処分の効力を否定するほどの重大な違法とはいえない。
重要事実
自作農創設特別措置法に基づき農地の買収・売渡処分がなされた。本件では、農地の買収時期(昭和23年12月2日)よりも、売渡の時期(同年10月2日)が先行しており、順序が逆転していた。また、買収・売渡計画の内容である時期が後に変更されたにもかかわらず、その変更について当初の計画と同様の公告手続が行われていなかった。このため、買収処分の無効が争われた。
事件番号: 昭和33(オ)5 / 裁判年月日: 昭和36年3月24日 / 結論: 棄却
買収計画の縦覧期間が一日不足していたということだけでは、右計画に基く買収処分は当然無効となるものではない。
あてはめ
まず、売渡が買収より先行した点について、これによって不利益を受けるのは売渡の相手方のみであり、旧所有者(上告人)の権利を侵害するおそれはない。したがって、売渡の効力が買収発効まで延期されると解せば足り、無効事由にはならない。次に、変更後の公告手続の欠如については、買収時期を遅らせたことにより関係人に不測の不利益を及ぼすことは考えられず、権利の円滑な変動を妨げるおそれもない。以上より、これらの手続上の瑕疵は、社会通念上、処分を無効ならしめるほどに重大な違法とは認められない。
結論
本件各処分に手続上の違法はあるが、それはいずれも買収処分を当然無効とするほどの重大な瑕疵とはいえない。
実務上の射程
行政処分の手続的瑕疵が「無効」となるか「取消し」にとどまるかの境界線を示す。特に、処分の相手方や関係人の実質的な権利保護の観点から不利益の有無を重視する判断枠組みとして、実務上、重大な瑕疵の有無を検討する際の考慮要素(不測の不利益の有無等)として活用できる。
事件番号: 昭和36(オ)1320 / 裁判年月日: 昭和38年12月26日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】行政処分が当然無効となるための「瑕疵の明白性」は、処分の外形上客観的に、誤認が一見して看取できるか否かにより決すべきであり、行政庁の調査怠慢の有無は直接関係しない。 第1 事案の概要:行政庁が、被上告人の自作地である農地を小作地であると誤認し、農地買収処分を行った事案。原審は、本件農地が実際には自…
事件番号: 昭和37(オ)1388 / 裁判年月日: 昭和38年12月12日 / 結論: 棄却
利害関係を有する者が農地委員会長として関与してなされた自作農創設特別措置法三条の規定に基づく農地買収計画樹立決議は、違法ではあるが、他に著しく決議の公正を害する特段の事由の認められないかぎり無効ではない。
事件番号: 昭和28(オ)1266 / 裁判年月日: 昭和33年4月30日 / 結論: 棄却
農地所有権の移転後、移転登記未経由の間に登記簿上の所有名義人を所有者としてなされた農地買収処分は、当然無効と解すべきではない
事件番号: 昭和32(オ)1096 / 裁判年月日: 昭和36年7月14日 / 結論: 破棄差戻
農地買収計画の異議棄却決定に対する訴願の提起があるにかかわらず、その裁決を経ないで、県農地委員会が訴願棄却の裁決があることを停止条件として右買収計画を承認し、県知事が土地所有者に買収令書を発行したという瑕疵は、爾後、訴願棄却の裁決があつたことによつて治癒されたと認むべきである。