自作地を小作地と誤つて行つた農地買収処分のかしが客観的に明白であるかどうか疑わしいとされた事例。
判旨
行政処分が当然無効となるための「瑕疵の明白性」は、処分の外形上客観的に、誤認が一見して看取できるか否かにより決すべきであり、行政庁の調査怠慢の有無は直接関係しない。
問題の所在(論点)
行政処分の当然無効事由としての「瑕疵の明白性」の判断基準、および行政庁の調査義務違反が明白性の判断に与える影響が問題となる。
規範
行政処分に当然無効事由があるというためには、瑕疵が重大であるだけでなく、客観的に明白であることを要する。ここに「明白」とは、処分の外形上、客観的に誤認が一見看取し得るものであることを指す。これは処分関係人の主観的な知・不知とは無関係に、権限ある国家機関の判断を待つまでもなく、何人の判断によってもほぼ同一の結論に到達し得る程度に明らかであることを意味する。行政庁が調査すべき資料を見落としたといった主観的な事情は、明白性の判定に直接関係しない。
重要事実
行政庁が、被上告人の自作地である農地を小作地であると誤認し、農地買収処分を行った事案。原審は、本件農地が実際には自作地であったことをもって、買収処分の誤謬は客観的に明白であり、当該処分は当然無効であると判断した。これに対し、処分当時の客観的状況からみて当該誤認が「明白」といえるかが上告審で争われた。
あてはめ
本件において、原判決は本件農地が自作地であったと断定しているが、買収処分当時において、小作地でなかったことが処分の外形上客観的に一見して看取し得るほど明白であったかについては疑いがある。単に事実として誤認があったというだけでは足りず、他に特段の事情がない限り、何人が判断しても誤認が明らかといえる程度に達しているとはいえない。したがって、原審が明白性の要件を容易に認めた点には、審理不尽または理由不備の違法がある。
事件番号: 昭和30(オ)920 / 裁判年月日: 昭和31年12月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分が当然無効とされるためには、その瑕疵が重大であるだけでなく、かつ客観的に明白であることを要する。本件買収処分については、瑕疵が重大であっても明白とは認められないため、当然無効とはならない。 第1 事案の概要:自作農創設特別措置法に基づき、行政庁が本件農地の買収処分を行った。しかし、当該処分…
結論
原判決を破棄し、本件を大阪高等裁判所に差し戻す。瑕疵が重大であっても、外形上客観的に明白といえない限り、当該処分は当然無効とはならない。
実務上の射程
公定力理論に基づき、取消訴訟の出訴期間を経過した後の救済を制限する「重大明白説」の標準的な判断枠組みを示すものである。答案上は、行政処分の無効を主張する際に、重大性だけでなく明白性の要件を本判例の定義(何人の判断によっても同一結論に達する程度)に従って厳格に検討する必要がある。特に、実体的な誤りがあることと、その誤りが外形上明白であることは別個の判断であることを強調すべきである。
事件番号: 昭和36(オ)1205 / 裁判年月日: 昭和38年2月22日 / 結論: 棄却
耕作地を小作地と誤認したため保有面積の計算を誤つてした農地買収処分であつても、その瑕疵が明白なものといえない以上、当該買収処分は無効とはいえない。
事件番号: 昭和36(オ)732 / 裁判年月日: 昭和38年12月24日 / 結論: 棄却
一 農地買収の時期が売渡の時期より後であつても、買収処分は無効とはいえない。 二 農地の買収、売渡計画の買収、売渡の時期の変更につき公告手続を経ないでした買収処分も無効ではない。
事件番号: 昭和33(オ)5 / 裁判年月日: 昭和36年3月24日 / 結論: 棄却
買収計画の縦覧期間が一日不足していたということだけでは、右計画に基く買収処分は当然無効となるものではない。
事件番号: 昭和28(オ)1266 / 裁判年月日: 昭和33年4月30日 / 結論: 棄却
農地所有権の移転後、移転登記未経由の間に登記簿上の所有名義人を所有者としてなされた農地買収処分は、当然無効と解すべきではない