耕作地を小作地と誤認したため保有面積の計算を誤つてした農地買収処分であつても、その瑕疵が明白なものといえない以上、当該買収処分は無効とはいえない。
保有面積の計算を誤つてした農地買収処分の効力。
自作農創設特別措置法9条
判旨
行政処分の瑕疵が処分の無効事由となるためには、その瑕疵が重大かつ明白であることを要する。土地の権利関係を誤認したことによる買収処分の違法は、客観的に明白な瑕疵とはいえないため、当該処分は当然無効とはならない。
問題の所在(論点)
行政処分に事実誤認の違法がある場合において、その瑕疵が当然無効とされるための要件、および本件のような権利関係の誤認が「明白な瑕疵」に該当するか。
規範
行政処分の取消訴訟の出訴期間が経過した後に、処分の効力を争うためには、当該処分に「重大かつ明白な瑕疵」があり、当然無効と解される必要がある。ここで「明白」な瑕疵とは、処分の成立過程や内容に照らし、瑕疵の存在が客観的に一見して明らかな場合を指す。
重要事実
上告人所有の土地は、昭和21年末までの使用貸借契約に基づき訴外Dが耕作していたものであり、農地改革当時の法令上の「小作地」には該当しなかった。しかし、農地委員会および被上告人(国)は、当該土地を小作地であると誤認し、上告人の保有面積を計算して本件買収処分を行った。上告人は、この誤認に基づく買収処分は違法であり無効であると主張して争った。
事件番号: 昭和36(オ)1320 / 裁判年月日: 昭和38年12月26日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】行政処分が当然無効となるための「瑕疵の明白性」は、処分の外形上客観的に、誤認が一見して看取できるか否かにより決すべきであり、行政庁の調査怠慢の有無は直接関係しない。 第1 事案の概要:行政庁が、被上告人の自作地である農地を小作地であると誤認し、農地買収処分を行った事案。原審は、本件農地が実際には自…
あてはめ
本件買収処分において、土地が小作地ではないにもかかわらず小作地と認定した事実は、買収計画の基礎を欠くものであり違法である。しかし、当時の状況下で農地委員会等が当該土地を小作地と誤認したことには「無理からぬこと」といえる事情があった。事実関係の調査や評価を要する誤認は、処分の外形から客観的に瑕疵が露呈しているとはいえず、処分を当然に無効とするほどの「明白」な瑕疵には当たらないと解される。
結論
本件買収処分には違法な瑕疵があるものの、その瑕疵は重大かつ明白とはいえないため、当然無効とはならない。したがって、処分の効力を前提とした原審の判断は正当である。
実務上の射程
行政処分の公定力と無効の限界を示すリーディングケースである。答案上は、出訴期間経過後の争いにおいて、原則として「重大かつ明白な瑕疵」が必要であることを論証し、事実誤認の程度が外見上明らかでない場合は無効とならないことを説明する際に活用する。
事件番号: 昭和28(オ)657 / 裁判年月日: 昭和30年4月26日 / 結論: 破棄差戻
登記簿上の所有者を所有者としてした農地買収処分は、真の所有者がこれを知りまたは知り得べき状態にあつたにかからず、不服申立の方法を採らなかつた場合は、当然には無効ではない。
事件番号: 昭和33(オ)5 / 裁判年月日: 昭和36年3月24日 / 結論: 棄却
買収計画の縦覧期間が一日不足していたということだけでは、右計画に基く買収処分は当然無効となるものではない。
事件番号: 昭和36(オ)1253 / 裁判年月日: 昭和38年3月1日 / 結論: 棄却
右誤認が原審認定の事情のもとで明白な瑕疵とはいえない以上、買収処分は違法であつても、無効ではない。
事件番号: 昭和35(オ)16 / 裁判年月日: 昭和36年2月21日 / 結論: 棄却
行政処分に対し適法な訴願が提起された後、行政事件訴訟特例法第二条但書の規定により訴願の裁決を経ないで提起された右処分の取消訴訟は、出訴期間が進行を開始する前の状態において提起された適法な訴と解すべきである。