行政処分に対し適法な訴願が提起された後、行政事件訴訟特例法第二条但書の規定により訴願の裁決を経ないで提起された右処分の取消訴訟は、出訴期間が進行を開始する前の状態において提起された適法な訴と解すべきである。
行政処分に対し適法な訴願提起後その裁決を経ないで出訴する場合と出訴期間。
行政事件訴訟特例法2条,行政事件訴訟特例法5条
判旨
行政処分に対し適法な不服申立てがなされた場合、行政庁の応答があるまでは出訴期間は進行せず、三ヶ月経過後であれば裁決前でも取消訴訟を提起できる。また、処分の前提となる外観が訴えを提起した者の不法な行為により生じたものであっても、それが処分を免れる等の不当な目的によるものでない限り、当該処分を争うことは公序良俗や信義則に反しない。
問題の所在(論点)
不法な養子縁組届出という自らの不法行為によって生じた所有権の外観に基づきなされた行政処分に対し、当該不法行為による瑕疵(縁組無効)を理由として取消しを求めることが、信義則や公序良俗に反し許されないか。
規範
行政処分に対し適法な行政上の不服申立てがあった場合、行政庁の応答(裁決)があるまでは出訴期間は進行しないと解される。また、自らの不法な行為に起因する法的瑕疵を主張して行政処分の取消しを求めることが、直ちに権利の濫用(民法1条)や公序良俗違反(同90条)、あるいは不法原因給付(同708条)の精神に反し許されないものとはならない。具体的には、①不法行為が処分を免れる目的や不法な目的でなされたか、②相手方が処分によって喪失すべき固有の私的取引上の利益を有するか、といった事情を総合的に考慮して判断すべきである。
重要事実
被上告人(原告)は、夫DおよびEの両親の意思に基づかず、氏名を冒署して無断で養子縁組の届出を行うという不法な行為を行った。その後、Dの死亡等により、本件農地がEの所有であるかのような外観が生じたため、行政庁はこれを前提に農地買収処分を行った。被上告人は、当該養子縁組が無効であることを理由に、農地買収処分の取消しを求めて出訴した。上告人は、被上告人の請求は自らの不法行為を端緒とするものであり、信義則等に照らし許されないと主張した。
事件番号: 昭和36(オ)1205 / 裁判年月日: 昭和38年2月22日 / 結論: 棄却
耕作地を小作地と誤認したため保有面積の計算を誤つてした農地買収処分であつても、その瑕疵が明白なものといえない以上、当該買収処分は無効とはいえない。
あてはめ
被上告人による冒署届出は不法な所為であるが、本件農地がE所有の外観を呈するに至ったのはDの死亡という偶然の事情によるものであり、被上告人の不法行為自体が農地買収処分を免れる目的でなされたものではない。また、その他に本件買収処分の取消しを求める関係において特に不法視すべき目的も見当たらない。さらに、上告人(行政側)は本件買収処分により喪失すべき固有の私的取引上の利益を有するものではない。したがって、被上告人の土地所有権が法律の保護に値しないとはいえず、取消請求を否定すべき特段の事情は認められない。
結論
被上告人が自らの不法な行為を前提とする瑕疵を理由に処分の取消しを求めることは、公序良俗や信義則に反せず、適法である。
実務上の射程
行政事件において「クリーンハンズの原則」や信義則を理由に原告の主張を封じ込めることに対し、慎重な態度を示したものといえる。特に行政側が私法上の取引主体のような独自の経済的利益を有しない場合には、原告側に一定の不法性があっても、客観的な法状態の回復(処分の取消し)が優先される傾向にあることを示唆している。
事件番号: 昭和36(オ)732 / 裁判年月日: 昭和38年12月24日 / 結論: 棄却
一 農地買収の時期が売渡の時期より後であつても、買収処分は無効とはいえない。 二 農地の買収、売渡計画の買収、売渡の時期の変更につき公告手続を経ないでした買収処分も無効ではない。
事件番号: 昭和33(オ)5 / 裁判年月日: 昭和36年3月24日 / 結論: 棄却
買収計画の縦覧期間が一日不足していたということだけでは、右計画に基く買収処分は当然無効となるものではない。
事件番号: 昭和33(オ)91 / 裁判年月日: 昭和35年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分の取消事由にすぎない瑕疵がある場合であっても、その瑕疵が処分を当然無効ならしめるほどの重大かつ明白なものでない限り、当該処分は当然には無効とならない。 第1 事案の概要:上告人は、農地買収処分に以下の無効原因があると主張した。(1)県係員の虚偽指示に基づく買収計画、(2)異議却下時の農地委…
事件番号: 昭和28(オ)1266 / 裁判年月日: 昭和33年4月30日 / 結論: 棄却
農地所有権の移転後、移転登記未経由の間に登記簿上の所有名義人を所有者としてなされた農地買収処分は、当然無効と解すべきではない