右誤認が原審認定の事情のもとで明白な瑕疵とはいえない以上、買収処分は違法であつても、無効ではない。
小作地でない農地を小作地と誤認して行つた買収処分の効力。
自作農創設特別措置法3条1項1号,自作農創設特別措置法9条
判旨
行政処分の無効事由としての「瑕疵の明白性」とは、処分成立の当初から誤認であることが外形上、客観的に明白であることをいう。行政庁による調査の有無といった主観的事情は、瑕疵の明白性の判断には関係しない。
問題の所在(論点)
行政処分の取消期間経過後にその効力を争う際、処分の無効事由として必要な「瑕疵の明白性」の判断基準、および行政庁による調査の有無がその判断に影響するか。
規範
行政処分が当然無効となるためには、当該処分に重大な瑕疵が存在するだけでなく、その瑕疵が明白であることを要する。「瑕疵が明白である」とは、処分成立の当初から、内容の誤認等が外形上、客観的に明白である場合を指す。行政庁が調査を尽くしたか否かという主観的過程は、瑕疵の明白性の判断を左右しない。
重要事実
農地委員会が、本件土地を「小作地」であると誤認して買収処分を行った。実際には使用借権や賃借権は存在しなかったが、被上告人Bが事実上耕作を継続しており、その耕作に至った経過に照らせば、外観上は土地所有者の承諾を得て貸借関係が成立している場合と顕著な差異が認められない状況にあった。
事件番号: 昭和37(オ)1389 / 裁判年月日: 昭和38年11月1日 / 結論: 棄却
一 農地買収処分の前提としての調査が十分になされたかどうかは、当該処分の有効無効に関係しない(昭和三六年三月七日第三小法廷判決、民集一五巻三号三八一頁)。 二 共有にかかる農地を単独所有であるとして為した買収処分の違法は、その誤認が原審判示のように無理からぬ事情のもとでなされた以上、重大かつ明白な瑕疵ということはできず…
あてはめ
本件では、Bが事実上耕作していた事実に加え、その経緯からしても所有者の承諾ある貸借関係による耕作と外観上の区別が困難であった。そうであれば、客観的にみて「小作地」ではないことが外形上明白であったとはいえない。また、農地委員会が権利関係を十分に調査したかという点は行政庁の主観的判断にすぎず、外形的な明白性の判断には影響を及ぼさない。
結論
本件買収処分は違法ではあるものの、瑕疵が客観的に明白とはいえないため、当然無効とはならない。
実務上の射程
重大・明白説(外形説)のリーディングケースである。行政の法的安定性と信頼保護の観点から、無効事由を厳格に限定する際に用いる。答案では「重大な瑕疵」を肯定した上で、本基準を用いて「明白性」を否定し、取消訴訟の排他的管轄(出訴期間制限)を重視する論理展開に有効である。
事件番号: 昭和36(オ)1205 / 裁判年月日: 昭和38年2月22日 / 結論: 棄却
耕作地を小作地と誤認したため保有面積の計算を誤つてした農地買収処分であつても、その瑕疵が明白なものといえない以上、当該買収処分は無効とはいえない。
事件番号: 昭和36(オ)1320 / 裁判年月日: 昭和38年12月26日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】行政処分が当然無効となるための「瑕疵の明白性」は、処分の外形上客観的に、誤認が一見して看取できるか否かにより決すべきであり、行政庁の調査怠慢の有無は直接関係しない。 第1 事案の概要:行政庁が、被上告人の自作地である農地を小作地であると誤認し、農地買収処分を行った事案。原審は、本件農地が実際には自…
事件番号: 昭和38(オ)533 / 裁判年月日: 昭和39年10月23日 / 結論: 棄却
登記簿上の所有名義人が長年農地を所有していた場合において、その農地を第三者の所有と誤認してなされた買収処分は、たとえ、その第三者が右所有者の女婿であり、世帯主であつたとしても、これを無効と解すべきである。
事件番号: 昭和26(オ)251 / 裁判年月日: 昭和32年4月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】既墾地を未墾地と誤認して行った農地買収計画等の行政処分は、その瑕疵が重大かつ明白である場合には当然無効となる。 第1 事案の概要:本件土地は、昭和22年6月の農地買収計画樹立時において、既に開墾が完了していた。具体的には、一方の土地には陸稲が植え付けられ、他方の土地には馬鈴薯や大豆等が蒔き付けられ…