登記簿上の所有名義人が長年農地を所有していた場合において、その農地を第三者の所有と誤認してなされた買収処分は、たとえ、その第三者が右所有者の女婿であり、世帯主であつたとしても、これを無効と解すべきである。
所有者を誤認してなされた農地買収処分が無効と解された事例。
自作農創設特別措置法9条
判旨
農地の真の所有者かつ登記簿上の名義人を確認せず、第三者を所有者と誤認してなされた農地買収処分は、重大かつ明白な瑕疵があり当然無効である。この場合、真の所有者が処分の事実を知り得たとしても、信義則を理由に無効の主張が制限されることはない。
問題の所在(論点)
行政処分の相手方を誤認した瑕疵が「重大かつ明白」として無効となるか。また、真の所有者が処分の事実を知り得た場合に、信義則によって無効の主張が制限されるか。
規範
行政処分の無効原因である瑕疵の「明白性」については、処分庁の過誤が客観的に明らかであることを要する。具体的には、農地買収処分において、真の所有者が存在し、かつ登記簿上もその旨が明らかである場合には、調査を尽くせば誤認を回避できたといえるため、特段の事情がない限り、他人を所有者と誤認した処分の瑕疵は重大かつ明白であると解される。また、処分庁の一方的な過誤による重大かつ明白な瑕疵がある場合、相手方が処分を放置していたとしても、信義則によって無効の主張が妨げられるものではない。
重要事実
被上告人は、大正13年以来、本件農地を所有しており、登記簿上の所有名義も被上告人となっていた。しかし、処分庁(上告人)は、被上告人の女婿であり世帯主であった訴外Fを所有者であると誤認し、Fを相手方として本件農地買収処分を行った。被上告人は、自身が所有者であることを知り、かつ本件処分の事実を知り得る状態にあったが、これを放置していた。上告人は、被上告人が処分を放置した以上、信義則上処分の無効を主張できないと争った。
事件番号: 昭和29(オ)28 / 裁判年月日: 昭和33年6月27日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】農地買収処分において、真実の所有者でない登記簿上の名義人を所有者としてなされた処分は、違法ではあるが当然無効とはならず、取消訴訟の対象となるにすぎない。 第1 事案の概要:所有者BがDに対し本件農地を売却し、Dが有効に所有権を取得した。しかし、登記簿上の名義人は依然としてBのままであった。国は、自…
あてはめ
本件農地は、長期間にわたり被上告人の所有であり、登記簿上もその名義が明記されていた。処分庁は登記を確認すれば容易に真の所有者を把握できたにもかかわらず、Fを相手方として処分を行っており、この過誤は客観的に明白な瑕疵といえる。Fが被上告人の女婿や世帯主であったという事情は、登記簿上の名義という明確な証憑に優先するものではない。また、信義則の適用について検討するに、本件は処分庁の一方的な過誤により重大かつ明白な瑕疵が生じたものである。真の所有者が処分を知り得たのに放置していたとしても、それだけで当然無効な処分の効力を肯定することは失当である。
結論
本件買収処分には重大かつ明白な瑕疵があり、当然無効である。被上告人が処分の事実を知り得たとしても、信義則によって無効の主張が妨げられることはない。
実務上の射程
行政処分の無効事由(重大明白説)の具体例として、登記という客観的資料が存在する場合の「明白性」を肯定する。また、無効な処分に対する信義則の適用を極めて限定的に解している点が重要であり、実務上、処分庁側の不備が著しい場合には、相手方の懈怠を理由とする有効性の主張は困難であることを示している。
事件番号: 昭和32(オ)883 / 裁判年月日: 昭和33年10月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分が当然無効とされるためには、その瑕疵が重大かつ明白であることを要する。事実に反する無理な認定により法律上の要件を欠くことが明白な状況下で強行された農地買収処分は、重大かつ明白な瑕疵があり当然無効である。 第1 事案の概要:被上告人はa村に居住し、そこを生活の本拠としていることは村民周知の明…
事件番号: 昭和28(オ)1266 / 裁判年月日: 昭和33年4月30日 / 結論: 棄却
農地所有権の移転後、移転登記未経由の間に登記簿上の所有名義人を所有者としてなされた農地買収処分は、当然無効と解すべきではない
事件番号: 昭和33(オ)91 / 裁判年月日: 昭和35年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分の取消事由にすぎない瑕疵がある場合であっても、その瑕疵が処分を当然無効ならしめるほどの重大かつ明白なものでない限り、当該処分は当然には無効とならない。 第1 事案の概要:上告人は、農地買収処分に以下の無効原因があると主張した。(1)県係員の虚偽指示に基づく買収計画、(2)異議却下時の農地委…
事件番号: 昭和38(オ)348 / 裁判年月日: 昭和39年7月7日 / 結論: 棄却
行政処分の無効を主張するについては、当該行政処分に重大かつ明白な瑕疵があることを具体的事実に基づいて主張すべきである。