買主側の不動産取引業者の行為が不動産の売買契約成立の機縁をもたらしたものとしても、判示事実関係のもとにおいては、売主からとくに依頼を受けるとかまたはこれと同視すべき事情のない以上、右取引業者は、売主に対して仲介の報酬を請求することはできない。
買主側の不動産取引業者が売主に対して仲介の報酬を請求できないとされた事例
商法512条,商法550条2項,宅地建物取引業法17条
判旨
不動産取引業者の行為が売買契約成立の機縁となった場合でも、売主側が業者の介入を拒絶し報酬を支払わない意向を明示していたなどの特段の事情があるときは、特段の委任関係やこれと同視すべき事情がない限り、報酬請求権は認められない。
問題の所在(論点)
不動産取引業者の行為が売買契約成立の機縁となった場合、売主との間に明確な委任契約が存在せず、かつ売主が業者の介入を拒絶していた状況下において、商法512条等に基づく報酬請求権が認められるか。
規範
商行為の媒介により報酬を請求するには、原則として委任契約を要する(商法512条、550条2項等)。もっとも、契約成立の機縁をもたらした場合には報酬請求が認められる余地があるが、①本人(売主)が業者の介入を拒絶する意思を明示し、かつ②業者がその事実を認識しながら活動したという特段の事情がある場合には、明示の委任またはこれと同視すべき状況がない限り、報酬請求権は発生しない。
重要事実
売主Dは報酬紛争を避けるため業者の介入を好まず、知人Eに買主の斡旋を依頼した。Eは業者A1に対し「売主からは報酬を貰えない」旨を伝えて情報を流し、A1から情報を得た他の業者らも、売主側が介入を望んでいないことを認識していた。その後、業者らが売主側と交渉したものの決裂し、業者らは一旦交渉から手を引いた。最終的に別の業者の仲介により売買契約が成立したが、当初の業者らが報酬を請求した。
あてはめ
本件では、売主Dが業者介入による報酬支払を避ける意思をEに伝えており、Eを通じて業者側にも「売主から報酬は得られない」という制限的な条件が伝達されていた。業者らもこの状況を認識しながら活動していたと推認される。また、業者らは一度交渉から手を引いており、その後の契約成立は別の業者の仲介によるものである。このような「特段の事情」がある状況下では、単に機縁をもたらしたというだけでは、委任関係と同視すべき事情があるとはいえず、報酬発生の根拠を欠くものと評価される。
結論
被上告人(売主)から特に依頼を受けるか、またはこれと同視すべき事情がない以上、報酬請求は認められない。
実務上の射程
商法512条の報酬請求権を制限する「特段の事情」の具体例を示す。実務上、媒介契約書の欠缺がある事案において、拒絶の意思表示の有無や、報酬不払の合意(あるいは一方的通告)に対する業者の認識を認定する際の有力な判断指針となる。
事件番号: 昭和35(オ)389 / 裁判年月日: 昭和38年2月12日 / 結論: 棄却
宅地建物取引業者は、不動産の買受人より依頼をうけて売買の媒介をなし、契約を成立せしめるに至つたときは、商法第五一二条により右買受人に対し報酬を請求しうる。