裁判所が証拠を排斥するにつき、その排斥の理由をいちいち説示する必要のないことは、当裁判所の判例とするところである(昭和三〇年(オ)第八五一号同三二年六月一一日第三小法廷判決・民集第一一巻第六号一〇三〇頁)。
証拠を排斥する理由を説示することの要否。
民訴法185条
判旨
裁判所が証拠を排斥するに際して、その排斥の理由を逐一説示する必要はない。これは裁判所の適法な証拠の取捨選択および事実認定の権限に属する事項である。
問題の所在(論点)
裁判所が提出された証拠を排斥(証拠として採用しない判断)をする際に、判決書においてその理由を個別に説明する義務があるか。すなわち、理由不備等の違法(民事訴訟法上の判決理由の不備)に該当するか。
規範
裁判所が証拠を排斥するにあたっては、その理由をいちいち説示する必要はない。証拠の取捨選択および事実に係る認定は、自由心証主義の下、裁判所の合理的な裁量に委ねられている。
重要事実
上告人は、原審(控訴審)が特定の証拠を採用しなかったことにつき、その理由を説示していない点を違法であると主張して上告した。具体的な事件の内容や、排斥された証拠の具体的な種類については判決文からは不明である。
事件番号: 昭和38(オ)909 / 裁判年月日: 昭和39年6月25日 / 結論: 棄却
証言及び当事者本人尋問の結果の採否について具体的事由を説示することなく単にこれを措信し難いとした点に違法はない(昭和三〇年(オ)第八五一号、昭和三二年六月一一日第三小法廷判決、民集一一巻六号一〇三〇頁参照)。
あてはめ
最高裁判所は、過去の判例(昭和32年6月11日判決)を引用し、証拠排斥の理由を個別に説示する必要はないという判断基準を再確認した。本件において、原審が上告人の主張する証拠を採用しなかったとしても、その理由を詳細に述べていないこと自体に違法性は認められない。結局、上告人の主張は原審の適法な証拠取捨および事実認定を非難するものにすぎず、失当であると解される。
結論
裁判所は証拠を排斥する理由を逐一説示する必要はなく、本件上告は棄却される。
実務上の射程
民事訴訟における判決書作成の実務において、すべての証拠の採否理由を記載する必要がないことを示した基本判例である。答案作成上は、判決理由の不備を論じる際や、自由心証主義の限界を検討する際の前提知識として活用できる。ただし、重要な証拠について全く触れないことが著しく不合理な場合には、例外的に理由不備等の問題が生じ得る点には注意を要する。
事件番号: 昭和32(オ)189 / 裁判年月日: 昭和35年12月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が主張した損害賠償請求の範囲が特定の費目に限定されている場合、それとは別の損害(賃料相当損害等)を別個の請求として明確に主張した形跡がない限り、裁判所が当該損害について判断しなくても判断遺脱の違法はなく、釈明義務も負わない。 第1 事案の概要:上告人(原告)は、競落した宅地および家屋を転売で…
事件番号: 昭和30(オ)551 / 裁判年月日: 昭和30年12月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が証拠申請に対し、採用しない旨の決定を口頭弁論調書に明記せず、証拠調べを行わないまま弁論を終結させた場合であっても、訴訟の指揮及び経過から取調の要なしとして暗黙に排斥したものと認められるときは適法である。 第1 事案の概要:上告人は、原審において証拠申請を行ったが、口頭弁論調書にはこの申請を…
事件番号: 昭和39(オ)848 / 裁判年月日: 昭和40年10月5日 / 結論: 棄却
供託書の記載を司法書士に依頼するに際し、法律知識のとぼしい普通の人間は、法律専門職である司法書士に対し供託原因の記載内容まで指示することは通常期待できない、という経験則はない。
事件番号: 昭和29(オ)471 / 裁判年月日: 昭和29年10月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告の理由が原審の証拠取捨や事実認定の非難に帰する場合、民事上告事件の審判の特例に関する事項に該当せず、適法な上告理由とはならない。 第1 事案の概要:上告人は、原審(控訴審)における証拠の取捨判断および事実認定に誤りがあるとして最高裁判所に上告を提起した。 第2 問題の所在(論点):原審における…