損害賠償額の予定が、債務者においてその責に帰すべき事由に基づき債務の履行を遅滞したときに限り賠償額を支払う約旨である場合には、賠償額支払義務の有無は、当該約旨に従つて判断すべきである。
履行遅滞が債務者の責に帰すべき事由に基づくときに限り賠償額を支払う旨の損害賠償額の予定がされた場合における賠償額支払義務の判断。
民法420条1項
判旨
賠償額の予定(民法420条1項)がなされた場合であっても、特段の合意がない限り、債務者が履行遅滞につき自己の責めに帰すべき事由がないことを立証したときは、損害賠償責任を免れる。
問題の所在(論点)
民法420条1項に基づく賠償額の予定がなされている場合、債務者は自己の帰責事由の欠如を抗弁として主張・立証することで、予定された賠償額の支払責任を免れることができるか。
規範
賠償額の予定は、債務不履行を要件とする損害賠償請求を簡便にする制度であるが、その実体は損害賠償請求にほかならない。したがって、金銭債務の特則(419条2項後段)のような特別の規定や別段の合意がない限り、債務不履行責任の一般原則が適用される。具体的には、債務者は不履行が自己の責めに帰すべからざる事由によることを証明すれば、予定された賠償額の支払義務を免れると解すべきである。
重要事実
売主(被上告人)と買主(上告人)との間で土地の売買契約が締結され、契約書には「明渡不履行の場合」に一定の損害金を支払う旨の賠償額の予定が定められていた。売主は引渡期限を徒過したが、その遅滞は売主の責めに帰すべき事由によるものではなかった。買主は、賠償額の予定がある以上、売主の帰責事由の有無にかかわらず損害金の支払義務が生じると主張して、その支払いを求めた。
あてはめ
本件契約における「明渡不履行の場合」との文言は、単に期限を徒過した事実を指すのではなく、売主の責めに帰すべき事由によって引渡を遅滞した場合を意味すると解釈するのが相当である。事実関係によれば、売主が期限内に引渡しを行えなかったのは売主の責めに帰すべき事由によるものではない。したがって、契約上の損害金支払要件である「明渡不履行」には該当せず、損害賠償請求権は発生しない。
結論
債務者は、履行遅滞が自己の責めに帰すべからざる事由によることを証明したときは、賠償額の予定があってもその支払責任を免れる。
実務上の射程
賠償額の予定があっても帰責事由(過失)が必要であるという原則を確立した判例である。答案上は、420条の請求であっても「債務不履行(帰責事由を含む)」が前提となることを明記する際に用いる。ただし、契約解釈により「帰責事由を問わない」とする合意も有効であるため、問題文の契約条項の文言を注意深く検討する必要がある。
事件番号: 昭和35(オ)1215 / 裁判年月日: 昭和37年5月25日 / 結論: 棄却
当事者間の共同事業を達成するために、市復興区画調整委員会等に対する運動費として、当事者の一方が相手方に対し、合計金三〇万円を交付した場合、右が不法原因給付に当るとしても、後にその返還を約する当事者間の合意は、民法第七〇八条の禁ずるところではない。