所有権留保の自動車月賦販売において、割賦金不払を解除権の発生原因とし、かつ、売主が右解除とともに目的自動車の引揚げを予め買主に約諾させることは、契約の自由として許されるべきであり、公序良俗に反しない。
割賦金不払による解除により売買の目的物引揚げを約諾することは公序良俗に反するか。
民法1条,民法90条
判旨
自動車の所有権留保付売買において、代金不払を理由とする契約解除および目的物の引揚げをあらかじめ買主が承諾する特約は、特段の事情のない限り公序良俗に反せず、自力救済禁止の原則にも直ちに抵触しない。
問題の所在(論点)
所有権留保特約に基づき、買主の承諾なく(または事前の概括的承諾に基づき)売主が目的物を回収する行為が、公序良俗(民法90条)や自力救済禁止の原則に反し、不法行為を構成するか。
規範
自動車の月賦販売において、(1)当事者間の特約により所有権を留保し、(2)割賦代金の不払を契約解除原因とし、(3)解除に伴う目的自動車の引揚げをあらかじめ買主が約諾することは、契約自由の原則として許容される。このような特約に基づき自動車を引き揚げる行為は、公序良俗に反するといえる特段の事情がない限り、直ちに法秩序を乱す自力救済として禁止されるものとは解されない。
重要事実
買主(上告人)は、売主(被上告人)から自動車を月賦で購入したが、代金20万円を滞納した。売買契約には、代金不払の場合に売主が契約を解除し、自動車を引き揚げることができる旨の特約があった。売主は、引揚げの数日前に買主宅を訪れ家人に引揚げの趣旨を伝え、買主もこれを認識した。その後、売主は整備工場に預けられていた本件自動車を、買主の修理代金を立替払いした上で引き揚げ、内容証明郵便により解除の通知を行った。買主は、この引揚げ行為が自力救済の禁止や公序良俗に反し、権利の濫用にあたると主張して争った。
あてはめ
自動車は動的で占有移転後の捕捉が困難な性質を有するため、債権保全のための引揚げ特約には合理性がある。本件では、買主が再三の請求にもかかわらず多額の代金を滞納しており、売主は事前に引揚げの趣旨を家人に伝えて買主もそれを把握していた。また、引揚げに際して買主の債務(修理代金)を立替払いするなどの配慮もなされている。解除通知後の処分についても、猶予期間を設けた通知を行うなど適正な手続を踏んでいる。したがって、本件引揚げはあらかじめなされた承諾に基づく正当な権利行使であり、社会通念上相当な範囲を逸脱した自力救済や権利の濫用にはあたらない。
結論
本件引揚げ特約およびそれに基づく回収行為は有効であり、公序良俗違反や不法行為を構成しない。
実務上の射程
所有権留保に基づく私的実行(自力回収)の限界を示した重要判例である。契約上の根拠(特約)がある場合でも、引揚げの態様が平和的であることや、事前の通知・督促、引揚げ後の清算手続の適正さが認められる場合に限り、違法性が否定される。実務上は、債務者の平穏な私生活や業務を害する態様での回収は依然として不法行為となり得る点に注意が必要である。
事件番号: 昭和38(オ)1347 / 裁判年月日: 昭和40年5月21日 / 結論: その他
自動車の割賦売買契約で、割賦金遅滞のときは契約を解除され、買主は自動車を返還する外、売買代金相当額の違約金を支払うものとする特約がされていても、該特約を一概に民法第九〇条により無効とすることはできない。