証言のみにより、成立に争のない書証(借金の内払を記載した振替伝票)を無視した事実認定は、理由不備の違法がある。
書証の採否に理由不備の違法があるとされた事例。
民訴法395条6号
判旨
書証の記載およびその体裁から、特段の事情のない限りその記載どおりの事実を認めるべき場合において、合理的な理由を示すことなくその書証を排斥して異なる事実を認定することは、理由不備の違法を免れない。
問題の所在(論点)
書証の記載内容から一定の事実が強く推認される場合に、裁判所がその書証を排斥して異なる事実を認定するにあたり、どの程度の理由提示が必要か(自由心証主義の限界と理由不備の成否)。
規範
裁判所が事実認定を行うにあたり、提出された書証の記載内容や体裁から、特段の事情がない限りその記載どおりの事実を認めるのが相当であると判断される場合、何ら首肯するに足りる理由を示すことなく当該書証を排斥することは、判決に理由を付さない「理由不備」(旧民事訴訟法407条1項、現行312条2項6号参照)の違法を構成する。
重要事実
破産会社が訴外Dから手形を受領し、即日被上告人へ借金の内払として交付したことを示す振替伝票(甲1号証の2)や、利息の支払実態を示す振替伝票(甲1号証の3)が提出されていた。原審は、被上告人と親交のあった破産会社専務の証言のみを根拠に、手形譲渡の日を昭和27年5月31日と認定したが、上記書証の記載内容(6月7日受領・交付等)を無視し、排斥する理由を判決中で示さなかった。
あてはめ
本件では、振替伝票という書証の記載によれば、特段の事情のない限り手形の譲渡日は6月7日と認定するのが相当である。しかし、原審は証言のみを根拠に異なる日を認定し、有力な書証である伝票の記載を理由なく無視した。これは、証拠の取捨選択における合理的な説明を欠いており、経験則や論理則に照らして妥当な理由付記がなされたとはいえない。
結論
原判決には理由不備の違法があるため破棄を免れない。手形の譲渡日に関する事実認定をやり直させるため、本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
自由心証主義(民訴法247条)の下でも、有力な証拠(特に客観性の高い書証)を排斥して正反対の事実を認定する場合には、論理的・合理的な理由の提示が必要であることを示す。答案上は、事実認定の不合理を理由不備として指摘する際の理論的根拠として活用できる。
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