裁判所が書証の一部を採用して事実認定の資料となし、他の一部を排斥するに当つては、その理由を一々明示するの必要なく、判文上そのことが了知し得られれば足りる。
裁判所が書証の一部を採用して事実認定の資料となし他の一部を排斥する場合とその理由の明示の要否
判旨
裁判所が書証の一部を採用して事実認定の資料とし、他の一部を排斥するに当たっては、その理由を逐一明示する必要はなく、判決文からその趣旨が了知できれば足りる。
問題の所在(論点)
裁判所が書証の一部の記載を証拠として採用し、他の部分を排斥して事実認定を行う場合、その理由を判決文において個別に明示する必要があるか(理由不備の有無)。
規範
自由心証主義(民事訴訟法247条)の下、裁判所は証拠の証拠力を自由な判断により評価できる。そのため、一つの書証の中に記載された複数の事実について、一部を採用し、他の一部を排斥して事実認定を行うことも許容される。この際、排斥の理由を逐一明示する必要はなく、判決全体の記載からそのことが了知できれば足りるものと解すべきである。
重要事実
金銭消費貸借の成否が争われた事案において、書証(甲第2号証)には「借用証書、金28万円を正に借用した」という旨の記載がある一方で、「昭和29年12月末日に10万円、昭和30年2月末日に20万円を返済する」という返済方法に関する記載も存在した。原審は、当該書証の一部(借用の事実)を採用しつつ、他の挙示された証拠と総合して事実認定を行ったが、書証内の一部を排斥した理由については個別に明示しなかった。
あてはめ
本件において、原審は甲第2号証の冒頭にある「金28万円を借用した」という記載を、他の証拠資料と総合して事実認定の基礎としている。書証の返済に関する記載との整合性について理由を詳述してはいないものの、判決文全体から、裁判所が証拠の取捨選択を行ったことは了知し得る。これは適法な裁量の範囲内における事実認定であり、理由不備の違法はないというべきである。
結論
書証の一部を採用し他を排斥するにあたり、理由を個別に明示する必要はなく、判旨からそのことが了知できれば足りる。本件の事実認定は適法である。
実務上の射程
自由心証主義に基づく証拠評価の合理性を基礎付ける判例。答案上は、理由不備(民訴法312条2項6号)の主張に対する反論として、証拠の取捨選択が裁判所の合理的な裁量に属することを示す際に活用できる。ただし、重要な証拠について何ら触れずに排斥した場合には別途検討が必要となる点に留意する。
事件番号: 昭和31(オ)273 / 裁判年月日: 昭和32年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自由心証主義に基づく事実認定において、採用した証拠が経験則や論理則に合致し、不採用とした証拠との対比が判決文上明確であれば、証拠申出の一部を排斥しても自由心証の範囲内であり、理由不備等の違法はない。 第1 事案の概要:上告人は、原審(控訴審)の事実認定に際し、民事訴訟法185条(現247条相当)に…