弁論の全趣旨の具体的内容が判示されなくても、他の挙示の証拠関係から当該事実認定が是認できる場合、理由不備はない。
弁論の全趣旨の判示方法。
民訴法185条
判旨
判決に「弁論の全趣旨」という記載があっても、その記載を除外して他の証拠のみで事実認定を維持できる場合には、当該記載は「あらずもがな」のものとして判決の違法とはならない。
問題の所在(論点)
民事訴訟において、判決書が「弁論の全趣旨」という抽象的な表現を用いて事実を認定した場合に、それが直ちに判決の違法(理由不備または理由齟齬等)を構成するか。
規範
事実認定の過程において「弁論の全趣旨」という文言が判決書に用いられていたとしても、当該事実認定が提示された他の証拠によって客観的に導き出し得るものであれば、その文言自体は判決の結論を左右するものではなく、判決に違法があるとはいえない。
重要事実
上告人の知人Dが被上告人から借り受けた13万円の未払残額がいくらであるかについて争いがあった。原審は、証拠等に基づき未払額の事実認定を行った際、その理由中で「弁論の全趣旨」という文言を用いた。上告人は、この認定が虚無の証拠に基づき、かつ判例に違反する証拠解釈であるとして、事実認定の違法を主張して上告した。
あてはめ
原判決において「弁論の全趣旨」という措辞が掲げられていることは事実である。しかし、本件の争点に関する原審の事実認定は、当該措辞を除外したとしても、挙示された他の証拠(乙第1号証、証人Dの証言、上告人本人尋問の結果等)に照らして十分に是認できる。したがって、この表現は判決の結論に影響を与えない不要な記述(あらずもがなのもの)に過ぎない。
結論
原判決に「弁論の全趣旨」との記載があっても、他の証拠により事実認定が維持できる以上、判決に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
自由心証主義(民事訴訟法247条)の下での事実認定において、補助的に「弁論の全趣旨」という言葉を用いる実務を肯定しつつ、それが実質的な証拠に基づかない空疎な表現である場合には違法となり得ることを示唆している。答案上は、理由不備の主張に対する反論として、認定が他の証拠から合理的に導ける場合に引用可能である。
事件番号: 昭和36(オ)1177 / 裁判年月日: 昭和37年3月22日 / 結論: 棄却
裁判所が書証の一部を採用して事実認定の資料となし、他の一部を排斥するに当つては、その理由を一々明示するの必要なく、判文上そのことが了知し得られれば足りる。