判旨
証拠の取捨選択について裁判所が逐一その理由を判示する必要はなく、他の証拠に照らして信用できない旨を示した上で、認定の根拠となる証拠を総合して事実を認定すれば、理由不備の違法はない。
問題の所在(論点)
事実認定における証拠の取捨選択について、裁判所は個々の証拠を採用しない理由を詳細に説示する義務を負うか。また、理由不備(民事訴訟法旧401条、現312条2項6号参照)の有無が争点となった。
規範
裁判所が事実認定を行うにあたり、提出された証拠の取捨選択について逐一その理由を判示することを要しない。また、特定の供述や鑑定を採用しない理由について、他の証拠との抵触を理由に信用し得ない旨を示し、認定の基礎とした証拠を総合して事実を確定している場合には、証拠採否の理由を示さなかったものとはいえない。
重要事実
上告人は、被上告人名義の書面(甲第二号証)に基づき、被上告人が保証人であると主張した。これに対し原審は、当該書面は被上告人の兄弟である訴外Dが被上告人の氏名を冒書して作成したものであり、被上告人によって作成されたものではないと認定した。その際、原審はDの供述や鑑定について、他の証拠に照らして信用または採用できない旨を判示し、結論を導いた。上告人は、証拠の取捨選択に理由がないこと(理由不備)や、被上告人の「他人の保証はしない」という供述の解釈に誤りがあることを理由に上告した。
あてはめ
まず、証拠の取捨は裁判所の自由心証に属し、全ての証拠について不採用の理由を逐一述べる必要はない。本件では、原審はDの供述や鑑定を「後記各証拠に照らすときは」信用できないと明示した上で、認定の根拠となる証拠を掲げて総合判断しており、理由不備にはあたらない。次に、被上告人の「他人の保証はしない」との供述についても、文脈上「他人」に「兄弟」を含む趣旨であると解することは、尋問全体の趣旨や「個人の保証は禁止されている」との他の供述と総合すれば合理的であり、経験則・論理則に反する事実認定の違法も認められない。
結論
原判決に事実認定の法則違背や理由不備の違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
判決書の「理由」における証拠説示の限界を示すものである。司法試験の実務基礎科目や民事訴訟法において、自由心証主義(247条)と理由不備の境界を検討する際、裁判所には証拠選択の広範な裁量があり、反対証拠を排斥する際に他の証拠との比較考量を示せば足りるという指針として活用できる。
事件番号: 昭和31(オ)273 / 裁判年月日: 昭和32年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自由心証主義に基づく事実認定において、採用した証拠が経験則や論理則に合致し、不採用とした証拠との対比が判決文上明確であれば、証拠申出の一部を排斥しても自由心証の範囲内であり、理由不備等の違法はない。 第1 事案の概要:上告人は、原審(控訴審)の事実認定に際し、民事訴訟法185条(現247条相当)に…