判旨
裁判所が判決を下す際、ある証拠を採用せず、その証拠を信用しないと判断した場合であっても、その根拠や理由を判決文に具体的に判示する義務はない。
問題の所在(論点)
裁判所が証拠を信用しないと判断する際に、判決書においてその具体的な根拠または理由を判示する義務があるか。すなわち、理由を判示しないことが「判決に理由を付さない」等の理由不備に該当するか。
規範
裁判所は、自由心証主義(民事訴訟法247条)に基づき証拠の評価を行う際、特定の証拠を信用しないと判断した根拠や理由を判決書に具体的に記載する必要はない。
重要事実
上告人は、原判決において特定の証拠が信用されないとされたことについて、その根拠や理由が判示されていないことを理由に、理由不備(旧民訴法395条1項6号、現行民訴法312条2項6号参照)の違法があると主張して上告した。
あてはめ
民事訴訟における事実認定は裁判官の合理的な心証形成に委ねられており、どの証拠を採用しどの証拠を排斥するかは裁判所の専権に属する。本件において、原判決が証拠を信用しないとしたことに対し、裁判所がその詳細な理由を説示しなかったとしても、それは裁判所の裁量の範囲内であり、法的な理由不備には当たらない。したがって、上告人の主張は独自の解釈に基づくものであり、採用し得ない。
結論
裁判所は、証拠を信用しない根拠又は理由を判示しなければならないものではないため、理由不備の主張は認められない。
実務上の射程
判決書の「理由」の記載程度に関する基本判例である。裁判所は争点に対する判断を示せば足り、証拠の取捨選択の過程まで詳細に説明する義務はないことを示す。司法試験の答案上では、理由不備の有無が問われた際、事実認定の基礎となる証拠評価の不記載が直ちに違法とならないことの論拠として利用できる。
事件番号: 昭和29(オ)889 / 裁判年月日: 昭和30年3月10日 / 結論: 却下
上告理由書に、民事上告事件等訴訟手続規則所定の方式により上告理由を記載していないときは、上告は不適法として却下を免れない。