債権者と債務者間との間に数口の債務がある場合に債務者のなす給付をどの債務の弁済に充当するかは両者間の契約により定めうるところであり、これにより弁済充当のなされなかつた債務の連帯保証人が免責を受けないことになつてもやむを得ない。
債権者債務者間の弁済充当の合意と連帯保証人の免責との関係。
民法488条,民法489条
判旨
債権者と債務者の間に数個の債務がある場合、弁済の充当は原則として当事者間の合意によって自由に定めうる。その結果、特定の連帯保証人が免責を得られないとしても、特約や信義則に反する特段の事情がない限り、当該合意充当は有効である。
問題の所在(論点)
債権者と債務者が合意によって弁済充当の対象を定めた場合、その合意の効力は連帯保証人に対して及ぶか。特に、法定充当によれば保証人がある債務に優先的に充当されるべき場合であっても、合意充当が優先するか。また、その限界はどこにあるか。
規範
債権者と債務者の間に数個の債務がある場合、どの債務に弁済を充当するかは、原則として両者の合意(合意充当)によって定めることができる。この合意により保証債務のある主債務が充当の対象から外れ、連帯保証人が免責を得られない結果となっても、原則としてこれを容認すべきである。ただし、①連帯保証人が当該給付を特定の債務に充当すべきことを債権者・債務者と約定していた場合、または②合意充当の内容が連帯保証人との関係で信義則に反するような特段の事情がある場合には、その限りではない。
重要事実
債務者Fは、被上告人に対し、上告人が連帯保証した70万円の主債務(本件主債務)のほか、29万5000円の別口債務を負っていた。Fは本件主債務の履行確保のため被上告人名義で相互掛金契約を締結していたが、後に被上告人とFは協議の上、当該契約を解約して得た返戻金を別口債務の弁済に充当することに合意した。連帯保証人である上告人は、この充当は違法であり、本件主債務が消滅したと主張して争った。
あてはめ
本件では、被上告人と債務者Fが予め協議した上で、解約返戻金を別口債務へ充当することを合意しており、有効な合意充当が成立している。上告人は、返戻金を本件主債務に充当する旨の約定があったと主張するが、原審においてそのような特約は認定されていない。また、上告人が掛金契約の成立に関与した等の事実もなく、別口債務へ優先的に充当する合意が、上告人との関係で信義則に反すると評価すべき事情も認められない。したがって、法定充当の規定を適用する余地はなく、本件主債務への充当を認めなかった合意は有効である。
結論
弁済充当に関する債権者と債務者の合意は有効であり、本件主債務への充当を否定した結論は妥当である。上告人は免責されない。
実務上の射程
法定充当(民法489条・491条)よりも合意充当が優先することを明示した判例である。答案上は、保証人がいる債務といない債務が混在する場合の弁済において、当事者間の合意がある限り保証人の利益は原則として保護されない旨を論じる際に用いる。例外として「信義則違反」を検討する際は、保証人が当該担保設定や弁済原資の確保にどの程度寄与していたか等の具体的事情を拾い、あてはめる必要がある。
事件番号: 昭和27(オ)700 / 裁判年月日: 昭和29年7月16日 / 結論: 破棄差戻
一 民法第四八九条第二号にいわゆる「債務者ノ為メニ弁済ノ利益多キモノ」を定めるにあたつては、甲債務は利息附であり、乙債務は新造船と網とが担保となつていることを確定しただけでは足らず、なお担保契約の内容等諸般の事情を考慮しなければならない。 二 右の場合において仮に乙債務が債務者のために弁済の利益が多いとしても、なお弁済…