原審が成立を認めた甲第八号証には、車輛二台の売り渡し期日は昭和三六年五月八日、その代金は一台につき七八、〇〇〇円との記載があり、同じく成立を認めた甲第一三号証には、同年三月一五日被上告人が上告人に対し右二台と別の三代の車輛代金として五九、〇〇〇円等を交付した旨記載されているのに、その記載が真実に反することについて首肯するに足りる理由を説示せずして、他の手形金等と後者の交付代金により前者の車輛代金が完済された旨認定することは、審理不尽、理由不備の違法を犯したものというほかはない。
書証の記載に反する事実の認定が理由不備とされた事例
民訴法395条1項6号
判旨
裁判所が成立を認めた書証に記載された事実と反する事実を認定する場合には、当該書証の記載が真実に反することを首肯するに足りる理由を説示してこれを排斥しなければならない。
問題の所在(論点)
裁判所が成立を認めた書証の記載内容と矛盾する事実を認定する場合に、判決理由において当該書証を排斥する理由を説示する必要があるか(事実認定における自由心証主義の限界と理由不備)。
規範
裁判所が成立(成立の真正)を認めた書証に記載された内容は、特段の事情がない限り、有力な事実認定の資料となる。したがって、裁判所が当該書証の記載に反する事実を他の証拠に基づいて認定する場合には、自由心証主義の下においても、当該書証の記載が真実に反することを首肯するに足りる合理的な理由を判決理由中で具体的に説示し、これを排斥する手続を要する。これを行わずに反する事実を認定することは、審理不尽または理由不備の違法を構成する。
重要事実
上告人が被上告人に対し、車両13台を売り渡した事案において、原審は、うち2台の代金も決済済みであり、本件約束手形は原因関係を欠くと判断した。しかし、原審が成立を認めた書証(甲8号証、13号証)には、当該2台の売買期日が決済日より後であることや、決済された現金等が別車両の代金であった旨が記載されていた。原審は、これらの書証を排斥する理由を述べることなく、他の証拠のみに基づき、書証の記載と矛盾する「代金支払い済み」という事実を認定した。
あてはめ
本件において、原審が成立を認めた甲第8号証および第13号証は、車両の売買期日や代金の使途について、原審の認定事実と真っ向から対立する内容を証明する有力な証拠である。原審は、これらの書証の記載が真実に反すると判断して他の証拠を採用したのであれば、なぜ書証の記載が信用できないのかを合理的に説明すべきであった。しかし、原審は何ら理由を付さず漫然と書証の記載に反する事実を認定しており、これは証拠評価の論理的過程を欠くものである。
結論
書証の記載を排斥する理由の説示を欠いたまま、その記載に反する事実を認定した原判決には、審理不尽・理由不備の違法がある。したがって、原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
民事訴訟における事実認定の合理性を争う際の強力な武器となる。特に、相手方が提出し自らも成立を認めた書証がある場合、裁判所がその記載を無視して不利な認定をしようとするならば、相応の理由付記が必要であることを主張できる。事実認定の客観性・透明性を担保する規範として重要である。
事件番号: 昭和33(オ)305 / 裁判年月日: 昭和33年12月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由が原判決の証拠取捨や事実認定の非難に帰する場合、それは適法な上告理由とは認められない。 第1 事案の概要:上告人らは、原判決が行った証拠の取捨、判断、および事実の認定に誤りがあるとして上告を申し立てた。 第2 問題の所在(論点):事実認定や証拠の取捨選択に対する不服申し立てが、適法な上告理…