ある事実の存在を肯認するに足りる証拠がある場合において、これを排斥することなく、漫然その事実を肯認するに足りる証拠がないとすることは、採証法則上、許されない。
採証法則に違反するとされた事例
民訴法185条
判旨
証拠の取捨選択が事実審の専権であっても、特定の事実を肯定するに足りる証拠が存在する場合に、これを排斥せずに漫然と証拠がないと断ずるのは採証法則に反する。このような判断は審理不尽または理由不備として違法となり、判決に影響を及ぼすおそれがある。
問題の所在(論点)
事実認定において、記録上存在する有力な証拠(当事者本人の供述)を合理的な理由なく無視し、証拠がないと判断することが採証法則違反(審理不尽・理由不備)に該当するか。
規範
証拠の取捨選択および事実の認定は原則として事実裁判所の専権に属する。しかし、ある事実の存在を肯定するに足りる具体的な証拠が存在する場合において、当該証拠を正当な理由なく排斥することなく、漫然とその事実を肯定するに足りる証拠がないと判断することは、採証法則に反し、審理不尽または理由不備の違法を構成する。
重要事実
上告人は、被上告人が第三者に対し約束手形を交付しないという約定(不交付約定)が存在したと主張した。これに対し原審は、上告人自身の供述には当該事実に沿う部分があるものの、被上告人本人の供述と対比すると信用しがたいとし、当該事実を肯定するに足りる証拠がないと判示した。しかし、記録上の被上告人本人の尋問調書には、むしろ当該事実を肯定するに足りる内容の供述が含まれていた。
あてはめ
原審は、被上告人本人の供述を上告人の供述に対する弾劾証拠として引用しながら、実際には被上告人自身の供述の中に不交付約定を肯定し得る内容が含まれていた。それにもかかわらず、原審はこの供述を排斥する特段の理由を示すことなく、漫然と事実を肯定する証拠がないと判示した。これは、存在する証拠の価値を適切に評価せずに事実を否定したものであり、自由心証主義の限界を逸脱した採証法則違反といえる。
結論
原判決には採証法則を誤った審理不尽、理由不備の違法があり、これが結論に影響を及ぼすおそれがあるため、原判決を破棄し差し戻すべきである。
実務上の射程
自由心証主義(民訴法247条)の限界を画する判例である。事実認定の不当を理由とする上告・上告受理申立てにおいて、「証拠があるのに無視した」という採証法則違反を主張する際の有力な根拠となる。答案上は、事実認定のプロセスにおいて重要証拠の看過がある場合に、審理不尽や理由不備(民訴法312条2項6号参照)を指摘する文脈で使用する。
事件番号: 昭和24(オ)78 / 裁判年月日: 昭和25年6月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由が原審の職権の範囲内における適法な証拠の取捨、判断および事実の認定を非難するにとどまる場合、それは適法な上告理由とはならない。 第1 事案の概要:上告人は、原審が行った証拠の取捨、判断および事実認定に不服があるとして上告を申し立てた。判決文からは具体的な事件の背景や原因となった事実関係の詳…