建物の適法な賃借人の同意なくしてその所有者が敷地所有者と当該建物の収去を合意してその旨の調停を成立させても、右賃借人を立ち退かせる手段として右の方法がとられた場合でないかぎり、権利の濫用とはいえない。
建物の適法な賃借人の同意なくしてなされた建物収去の合意が権利の濫用にあたらないとされた事例
民法1条3項
判旨
建物所有者が、敷地所有者との間で、借受金債務の不履行を条件に建物を収去し土地を明け渡す合意をしても、建物の賃借人を立ち退かせる不当な目的があるなどの特段の事情がない限り、賃借人の同意がなくとも、当該合意は権利の濫用や公序良俗違反として無効にはならない。
問題の所在(論点)
建物所有者と土地所有者が、建物の賃借人の同意なく建物収去・土地明渡の合意をすることが、賃借権を侵害するものとして権利の濫用や公序良俗に反し無効となるか。
規範
建物所有者が敷地所有者との間で建物収去・土地明渡の合意をすることは、原則として自由な処分権の範囲内である。もっとも、建物の賃借人を不当に立ち退かせる目的等の事情があれば、権利の正当な行使を逸脱するものとして、権利の濫用(民法1条3項)や公序良俗違反(民法90条)により無効となり得る。
重要事実
建物所有者Dは、被上告人(敷地所有者)から建物の買受代金の融資を受け、その担保として本件宅地の登記名義を被上告人とした。Dは被上告人に対し、期限までに元利金を支払わないときは、建物を収去し土地を明け渡す旨を合意し、後に同趣旨の調停が成立した。本件建物の適法な賃借人である上告人らは、自身の同意のない右合意は権利の侵害・濫用であり無効であると主張した。
事件番号: 昭和34(オ)777 / 裁判年月日: 昭和36年6月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】独立当事者参加訴訟(民訴法47条)において、原告、被告、参加人の三当事者間で権利関係を合一に確定する必要がある場合、原告が参加人の請求を認諾したとしても、被告がこれを争っている限り、その認諾は効力を生じない。 第1 事案の概要:原告Bが被告に対して訴えを提起し、さらに参加人が民事訴訟法71条(現4…
あてはめ
本件において、Dと被上告人との合意は、借受金債務の担保を目的とするものであった。上告人らは、被上告人とDが上告人らを立ち退かせるために通謀して合意の形式をとったと主張するが、原審においてそのような事実は認定されていない。したがって、建物の賃借人を不当に追い出すための手段として合意がなされた等の事情は認められず、Dが債務不履行の結果として建物収去義務を負うことは、権利の濫用や公序良俗違反には当たらないと評価される。
結論
本件合意は有効であり、建物賃借人の同意がないことをもって直ちに権利の濫用や公序良俗違反とはならない。
実務上の射程
敷地利用権を喪失した建物所有者が収去義務を負うことは、反射的に建物賃借権の喪失を招くが、本判決は、建物所有者の処分権を尊重しつつ、賃借人の追い出し目的という主観的態様があれば例外的に無効とし得るという枠組みを示している。答案上は、物権的請求権に対する信義則違反や権利の濫用の主張に対する再反論として、不当な目的の有無を検討する際に活用すべきである。
事件番号: 昭和41(オ)1406 / 裁判年月日: 昭和42年7月6日 / 結論: 棄却
建物とともに敷地の賃借権が転々譲渡され、賃借権の各譲渡について賃貸人の承諾のない場合であつても、賃借権存続期間中に譲りうけた最後の譲受人は、建物買取請求権を有する。
事件番号: 昭和45(オ)631 / 裁判年月日: 昭和47年3月7日 / 結論: 棄却
土地の賃貸人と賃借人との間において土地賃貸借契約が合意解約されたが、一方、土地の賃借人が同地上に所有する建物に設定した根抵当権が実行され、右建物が競落された場合において、右合意解約の原因がもつぱら賃借人の賃料不払にあり、また、右競落は、合意解約により右土地の賃借権が消滅したのちであつて、競落人は右賃借権消滅の事実を知悉…
事件番号: 昭和36(オ)976 / 裁判年月日: 昭和37年3月23日 / 結論: 棄却
登記のない建物については「建物保護ニ関スル法律」は適用されない。