代理権消滅後、従前の代理権の範囲に属しない行為をした場合に表見代理が認められた事例
判旨
代理権消滅後に、元代理人が従前の代理権の範囲を超えた行為をした場合、民法112条(代理権消滅後の表見代理)と110条(権限外の行為の表見代理)の法理を重ねて適用し、相手方がその権限があると信ずべき正当な事由があるときは、本人はその責を負う。
問題の所在(論点)
代理権消滅後に、元代理人が「消滅した代理権の範囲外」の行為をした場合に、民法112条および110条を重畳的に適用して表見代理の成立を認めることができるか。
規範
代理人がその代理権の消滅後、かつての代理権の範囲に属しない行為をした場合であっても、代理権の消滅につき善意無過失の相手方が、代理人にその権限があると信ずべき正当な事由があるときは、民法112条および110条の趣旨を類推適用(または重畳適用)し、本人はその行為について責任を負うべきである。
重要事実
上告人の養父Eは、上告人の承諾を得て土地・家屋への抵当権設定等の代理権を有していたが、当該契約締結により代理権は消滅した。その後、Eは上告人名義の印鑑等を不正に作成・入手し、上告人の代理人と称して、被上告人に対し本件不動産を売却し所有権移転登記を完了させた。被上告人は、Eが上告人の養父であり、かつて正当な代理権に基づき抵当権設定等を行っていた事実や、Eが当該物件の実権を有すると称していたこと、さらにEの依頼で既存の抵当債務を肩代わり弁済したこと等の事情から、Eに売却の権限があると信じていた。
あてはめ
Eは以前、本件不動産に関する抵当権設定等の正当な代理権を有していたが、売買契約時は無権代理であった。しかし、被上告人は上告人とEの密接な親族関係を知り、過去に上告人がEに一切の処理を委ねていた事実(抵当権設定)も認識していた。加えて、Eが物件を占有し、被上告人がEの依頼で抵当債務を肩代わりして抹消登記を得るなど、Eが処分権限を有すると信じるに足りる客観的事実が存在した。これらの事情を総合すれば、被上告人がEに代理権があると信じたことには「正当な事由」があり、過失も認められない。
事件番号: 昭和36(オ)50 / 裁判年月日: 昭和38年8月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代理人が本人から授与された権限(本件では10万円の保証および抵当権設定等)を超えて、より広範な内容の契約(30万円の根抵当権設定)を締結した場合、相手方が代理権を有すると信ずべき正当な理由があるときは、民法110条の表見代理が成立する。 第1 事案の概要:上告人はDに対し、10万円の範囲での借用債…
結論
被上告人には正当な事由が認められるため、本件不動産の売買について表見代理が成立する。したがって、上告人は所有権移転登記の抹消を求めることはできない。
実務上の射程
112条(消滅後)と110条(権限外)が重なるケースにおいて、判例が認める判断枠組みを示すものである。答案上は、まず112条の基礎となる代理権の存在を確認した上で、その消滅後の行為が110条の「権限外」に当たる場合でも、両条を組み合わせて「正当な事由」を検討し、表見代理を認める論理として活用する。
事件番号: 昭和38(オ)565 / 裁判年月日: 昭和39年9月18日 / 結論: 棄却
代理権を有する者のなした権限外の行為がその代理権となんら関係のない場合でも、相手方において代理人に権限があると信ずるに足る正当な理由があるときには、民法第一一〇条の適用がある。
事件番号: 昭和36(オ)78 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の表見代理が成立するためには、相手方が代理権があると信じ、かつ信ずるにつき正当の事由があることを具体的に主張する必要があり、単に代理権があると信じていたという事実の主張のみでは足りない。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人B1がB2を代理して消費貸借契約や抵当権設定、代物弁済予約を…
事件番号: 昭和42(オ)1391 / 裁判年月日: 昭和45年12月24日 / 結論: 破棄差戻
無権代理人甲が乙の代理人と称して丙と締結した抵当権設定契約を乙が追認したのち、甲が乙の代理人と称して丁と抵当権設定契約を締結した場合において、丁が甲に乙を代理して右抵当権設定契約をする権限があると信ずべき正当の事由を有するときは、乙は、民法一一〇条および一一二条の類推適用により、甲のした抵当権設定契約につき責に任じなけ…
事件番号: 昭和32(オ)723 / 裁判年月日: 昭和34年11月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の表見代理における「正当な理由」の存否は、代理人の年齢や家族関係、取引相手との距離等の具体的事情を総合考慮して判断される。本件では、80歳の父が子の代理人として振る舞った際、相手方が近隣居住者であっても直ちに過失があるとはいえず、代理権があると信じるに足りる正当な理由が認められた。 第…