賃貸借の権利金の返還請求ができるとされた事例
判旨
建物の賃貸借契約において、賃借人が解約留保特約に基づき中途解約をした場合、契約時の覚書に権利金返還の原則規定があるときは、賃貸人は残存期間に対応する権利金を返還する義務を負う。
問題の所在(論点)
解除権留保の特約に基づき賃借人が契約を中途解約した場合において、覚書に定められた権利金返還規定の射程および返還額の算定方法が問題となる。
規範
賃貸借契約に伴い授受された権利金の返還義務の有無および範囲は、当事者間の合意(特約や覚書)の解釈による。特に、中途解約時における返還規定が存在する場合、その規定は特定の返還方法に限定されるものではなく、残存期間に応じた返還を認める原則規定として解釈されるべきである。
重要事実
賃貸人(上告人)と賃借人(被上告人)との間で、約定期間10年の賃貸借契約が締結され、権利金が授受された。契約の際、両者は権利金の返還に関する「覚書」を交わしており、その第5条には返還に関する原則規定が設けられていた。賃借人は、2ヶ月の予告期間を置くことで中途解約できるという解除権留保の特約に基づき、本件契約を解除し、建物を明け渡した。これに対し賃借人が残存期間分の権利金返還を求めたところ、賃貸人は返還の要件を限定的に解釈すべきと主張して争った。
あてはめ
本件覚書第5条は、権利金返還に関する「原則規定」であると解される。賃借人が適法に解除権を行使して建物を明け渡した以上、同条項の趣旨に照らせば、賃貸人は、契約当初の権利金額に、明け渡し後の残存期間を当初の約定期間(10年)で除した割合を乗じた金額を返還すべきである。賃貸人が主張する「特定の返還方法・場合に限る」との限定解釈は、当事者の合理的意思に合致せず、採用できない。
結論
事件番号: 昭和27(オ)726 / 裁判年月日: 昭和29年9月10日 / 結論: 棄却
将来不成立の場合は返還を受くべき約旨の下に将来成立すべき賃借権の対価として金員を交付した場合において、その賃借権が不成立に終つたときは、その金員の交付をもつて権利金の交付と目すべきでなくこれをもつて直ちに不法原因給付ということはできない。
賃貸人は、中途解約による残存期間に対応する権利金の返還義務を負う。賃借人の請求を認めた原審の判断は正当である。
実務上の射程
契約書や覚書に権利金の返還条項がある場合の解釈指針となる。実務上は、権利金が賃料の前払的性格や場所的利益の対価的性格を有する場合、中途解約時の精算条項の有無および内容が決定的な意味を持つことを示唆している。
事件番号: 昭和42(オ)1445 / 裁判年月日: 昭和43年6月27日 / 結論: 棄却
期間の定のない店舗の賃貸借において、右店舗の場所的利益の対価としての性質を有する権利金名義の金員が賃借人から賃貸人に交付されていた場合には、賃貸借がその成立後二年九箇月で合意解除されたとしても、賃借人は、当然には、賃貸人に対して右金員の返還を請求することができるものではない。
事件番号: 昭和30(オ)468 / 裁判年月日: 昭和32年11月15日 / 結論: 棄却
権利金の受領が地代家賃統制令により禁止されている場合において、借主が貸主に対し権利金の支払を約し、法律上その支払義務のないことを知りながらこれを支払つたときは、他に特段の事由のないかぎり、民法第七〇五条により、借主は右権利金の返還を請求することはできない。
事件番号: 昭和29(オ)902 / 裁判年月日: 昭和32年12月24日 / 結論: 棄却
一 合意解除の場合は、民法第五四五条による原状回復義務は生じない。 二 原告(買主)が、被告(売主)の債務不履行を理由として売買契約の法定解除を主張し、民法第五四五条により、前渡代金の返還を請求している事案において、右法定解除が認められなかつた場合は、たとえ原告の否認する合意解除の事実が認められても、当該訴訟においては…