将来不成立の場合は返還を受くべき約旨の下に将来成立すべき賃借権の対価として金員を交付した場合において、その賃借権が不成立に終つたときは、その金員の交付をもつて権利金の交付と目すべきでなくこれをもつて直ちに不法原因給付ということはできない。
将来成立しない場合は返還を受くべき約旨の下に将来成立すべき賃借権の対価として金員を交付した場合と不法原因給付
民法708条,地代家賃統制令12条の2
判旨
将来の土地賃貸借成立を条件として借地権利金に充てる趣旨で交付された金銭は、賃貸借が不成立に終わった場合には返還すべき特約がある以上、不法原因給付には当たらない。したがって、契約不成立時には当該特約に基づき、交付された金員の返還を請求することができる。
問題の所在(論点)
借地権利金の前払として交付された金銭が、契約不成立の場合の返還特約を有する場合に、不法原因給付として返還請求が否定されるか。
規範
将来の契約成立を前提とする金銭の授受において、契約が不成立となった場合に当該金銭を返還する旨の明確な合意(特約)がある場合、その金員の交付は直ちに不法原因に基づく給付(民法708条)とは解されない。
重要事実
上告人は、第三者が占有中の土地につき、明渡しが得られた場合には被上告人に賃貸することを約した。その際、被上告人は権利金26万円のうち15万円を前払し、明渡しが1年以内に実現しない場合は不成功とみなし、利息を付して即時返還するとの特約を設けた。その後、明渡しが実現せず賃貸借契約は不成立となったため、被上告人が金員の返還を求めた。
あてはめ
本件で交付された15万円は、将来賃貸借が成立した際に権利金に充当する趣旨であり、不成立時には即時返還すべきことが明示的に合意されていた。このような合意に基づく金員の授受は、権利金そのものの交付と同一視することはできず、公序良俗に反する不法な原因に基づく給付とはいえない。上告人が自認するように賃貸借は不成立に終わっているため、返還特約の条件は成就している。
結論
被上告人の返還請求は正当であり、上告人は受領した15万円および利息を返還する義務を負う。
実務上の射程
権利金の授受が法的に制限される場合や公序良俗違反が疑われる場面でも、返還特約がある預り金的性質の交付であれば、民法708条の適用を回避して返還請求を認める余地を示す。答案上は、不法原因給付の成否を論じる際の「給付」の性質決定や返還合意の有効性を判断する枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)554 / 裁判年月日: 昭和32年3月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法708条の不法原因給付に該当する給付がなされた場合であっても、給付後に当事者間でなされた当該給付の返還を目的とする特約は有効である。 第1 事案の概要:上告人は、何らかの不法な原因に基づき被上告人に対して金員を給付した(不法原因給付)。その後、上告人と被上告人の間で、当該給付した金員を返還する…