賃貸人の債務不履行によつて賃借人が賃借権を喪失したことによる損害額を権利金を基準として算定した事例。
判旨
賃貸借契約の際に支払われた権利金が賃借権設定の対価(賃料の前払的性質等)である場合、賃貸人の債務不履行により契約期間途中で賃借権を失った賃借人は、残存期間に対応する権利金相当額を損害として賠償請求できる。
問題の所在(論点)
賃貸人の債務不履行により期間途中で賃貸借契約が終了した場合において、支払済みの権利金のうち未経過期間に対応する額を、債務不履行に基づく損害(民法415条)として請求できるか。権利金の法的性質と関連して問題となる。
規範
賃貸借契約において授受される権利金は、特段の事情のない限り賃借権設定の対価としての性質を有する。そのため、一定の賃貸借期間を前提として権利金が支払われた場合、賃貸人の責めに帰すべき事由により当該期間の満了前に賃貸借が終了したときは、賃借人は、全期間に対する未経過期間の割合に応じた権利金相当額を、債務不履行に基づく損害として請求することができる。
重要事実
賃借人(被上告人)は、賃貸人(上告人)との間で、期間10年の倉庫および居間の賃貸借契約を締結し、権利金14万円を支払った。しかし、契約から約2年後、賃貸人が賃借人の不在中に無断で居間内の荷物を倉庫に移動させて使用を拒否したため、賃借人は契約目的を達成できなくなり、賃借権を放棄して退去せざるを得なくなった。賃借人は、残存期間約8年に見合う権利金相当額(11万2000円)の損害賠償を主張した。
あてはめ
本件の権利金14万円は、10年という賃貸借期間に見合う賃借権設定の対価と解される。賃借人は賃貸人の債務不履行(居間の使用拒否)という義務違反によって、約8年という残存期間にわたる賃借権を行使できない損害を被ったといえる。したがって、全期間(10年)のうち未経過期間(8年)の割合に対応する11万2000円は、賃貸人の債務不履行と相当因果関係のある損害であると認められる。
事件番号: 昭和27(オ)726 / 裁判年月日: 昭和29年9月10日 / 結論: 棄却
将来不成立の場合は返還を受くべき約旨の下に将来成立すべき賃借権の対価として金員を交付した場合において、その賃借権が不成立に終つたときは、その金員の交付をもつて権利金の交付と目すべきでなくこれをもつて直ちに不法原因給付ということはできない。
結論
賃借人は賃貸人に対し、残存期間に対応する権利金相当額の損害賠償請求をなし得る。本件では、当該損害賠償債権を自働債権とする相殺の効力が認められる。
実務上の射程
権利金の返還義務そのものを認めるのではなく、賃貸人の債務不履行を前提とした「損害賠償」の範囲として処理している点に注意が必要である。答案上は、権利金の対価性を認定した上で、期間途中での終了による利益喪失を415条の損害として構成する際に活用する。
事件番号: 昭和36(オ)87 / 裁判年月日: 昭和38年8月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の債務不履行により解除となった際、債務整理の必要上、物件を不利な条件で早急に転売せざるを得なかったという特別事情がある場合、当該転売価格と当初の売買価格との差額を損害として賠償請求でき、その算定に際して物件の時価を確定する必要はない。 第1 事案の概要:買主(上告人)の代金支払債務不履行に…