権限のない賃貸人から家屋を賃借した場合には、借家法第一条の適用はない。
権限のない賃貸人から家屋を賃借した場合と借家法第一条適用の有無
借家法1条
判旨
借地借家法(旧借家法)における賃貸借の対抗力規定は、正当な権限を有する賃貸人との間で契約が締結された場合にのみ適用され、無権限者との間の賃貸借には適用されない。また、過去に事実と異なる主張をした者であっても、それが錯誤に基づくものであれば、後に真実の権利を主張することは信義則や禁反言の原則に反しない。
問題の所在(論点)
1. 無権限者(所有権を失った元買主)から家屋を借り受け引渡しを受けた賃借人は、真実の所有者に対して借家法上の対抗力を主張できるか。 2. 以前に事実と異なる権利主張をしていた者が、訴訟において真実の所有権を主張することは信義則(禁反言)に反するか。 3. 明渡請求を受けた後の占有継続について、不法行為上の過失が認められるか。
規範
1. 借家法1条(現借地借家法31条1項)に基づく賃借権の対抗力が認められるためには、当該賃貸借契約が目的物について有効な処分権限を有する賃貸人との間で締結されていることを要する。無権限者との契約に基づく賃借権は、真実の所有者に対抗できない。 2. 訴訟外で自己の権利関係につき事実と異なる表示をした者が、後に訴訟において真実の権利関係を主張することは、先の表示が錯誤に基づくものであれば、信義則ないし禁反言の原則に反しない。
重要事実
合名会社と株式会社との間の家屋売買契約が解除され、所有権が合名会社に復帰したが、上告人は解除から約2年経過した後に、所有権を有しない株式会社から賃借権を譲り受けた(または賃貸借契約を締結した)。被上告人(真実の権利者)は、当初は当該家屋が合名会社に属すると主張していたが、本訴において自己の所有であると主張した。上告人は、建物の引渡しを受けて占有していることを根拠に、借家法による対抗力および信義則違反を主張して争った。
あてはめ
1. 本件家屋の売買は解除されており、株式会社は賃貸権限を有していなかった。借家法1条は「権限ある賃貸人」との契約を前提とするため、無権限者から借りた上告人に同条の適用はない。 2. 被上告人が以前に家屋の帰属について事実と異なる説明をしたのは錯誤によるものであり、本訴で真実の権利を主張することは禁反言に当たらない。 3. 被上告人が明渡請求を行った事実を上告人が争っていない以上、それ以降の占有について、判示の諸般の事情を参酌すれば、上告人に過失があるといえる。
結論
1. 無権限者からの賃借人は、借家法による対抗力を取得せず、真実の所有者に対し占有を正当化できない。 2. 錯誤に基づく先行表示と矛盾する主張をしても、信義則には反しない。 3. 明渡請求後の占有につき過失による不法行為が成立し、賃料相当額の損害賠償義務を負う。
実務上の射程
対抗力の前提として「賃貸人の権限」を要求する極めて基礎的な判例である。答案上は、不動産賃貸借の対抗力が問題となる場面で、賃貸人が無権利者である場合に本法理を引用し、対抗力規定(借地借家法10条、31条)の適用を否定する論理として活用する。また、権利自白や信義則の文脈でも、錯誤がある場合の主張変更を肯定する一材料となる。
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