期間の定のない店舗の賃貸借において、右店舗の場所的利益の対価としての性質を有する権利金名義の金員が賃借人から賃貸人に交付されていた場合には、賃貸借がその成立後二年九箇月で合意解除されたとしても、賃借人は、当然には、賃貸人に対して右金員の返還を請求することができるものではない。
賃貸借終了後いわゆる権利金の返還を請求できないとされた事例
民法601条
判旨
賃貸借契約の際に場所的利益の対価(権利金)として授受された金員は、賃料の後払いや返還の合意等の特段の事情がない限り、契約が中途で合意解除されたとしても返還を請求することはできない。
問題の所在(論点)
店舗の場所的利益の対価として支払われた権利金について、期間の定めのない賃貸借契約が中途で合意解除された場合に、賃借人は不当利得等に基づきその返還を請求できるか。
規範
権利金が、賃借した建物部分の有する特殊の場所的利益の対価として支払われたものである場合、①賃料の一時払(前払)としての性質を包含せず、かつ、②契約締結時または終了時において返還に関する特段の合意がなされていないときは、賃貸借が合意解除等により終了しても、賃借人はその返還を請求することはできない。
重要事実
賃借人(上告人)は、賃貸人(被上告人)との間で期間の定めのない店舗賃貸借契約を締結する際、権利金名目として15万円を交付した。この金員は当該店舗の場所的利益の対価であり、賃料の前払的性格は有していなかった。その後、契約成立から約2年9ヶ月が経過した時点で賃貸借契約は合意解除され、建物は返還されたが、授受された金員の返還については何ら合意がなされていなかった。そのため、賃借人が賃貸人に対し、右金員の全部または一部の返還を求めて提訴した。
事件番号: 昭和30(オ)468 / 裁判年月日: 昭和32年11月15日 / 結論: 棄却
権利金の受領が地代家賃統制令により禁止されている場合において、借主が貸主に対し権利金の支払を約し、法律上その支払義務のないことを知りながらこれを支払つたときは、他に特段の事由のないかぎり、民法第七〇五条により、借主は右権利金の返還を請求することはできない。
あてはめ
本件の15万円は場所的利益の対価であり、賃料の一時払としての性質を含まない(規範①)。また、期間の定めがない契約において、返還に関する特段の合意も存在しない(規範②)。そうであれば、契約が約2年9ヶ月で合意解除されたという事実があっても、それは権利金を保持する法的根拠を失わせるものではないため、全部または一部の返還義務は生じない。賃貸借が短期間で終了したという「それだけの理由」では、返還請求は認められないと解される。
結論
上告人の返還請求を排斥した原審の判断は正当であり、権利金の返還を認めることはできない。
実務上の射程
権利金の性質が場所的利益の対価(営業上のメリットへの対価)である場合に、合意解除や中途解約に伴う返還義務を否定した射程の長い判例である。答案上は、まず権利金の法的性質を認定した上で、前払賃料的性格の有無や返還合意の有無を検討し、それらがない場合には「短期間での終了」という事実のみでは返還が認められないことを示す際に用いる。
事件番号: 昭和36(オ)1102 / 裁判年月日: 昭和37年4月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の賃貸借契約において、賃借人が解約留保特約に基づき中途解約をした場合、契約時の覚書に権利金返還の原則規定があるときは、賃貸人は残存期間に対応する権利金を返還する義務を負う。 第1 事案の概要:賃貸人(上告人)と賃借人(被上告人)との間で、約定期間10年の賃貸借契約が締結され、権利金が授受された…