判旨
売買契約が合意解除された場合、特段の合意がない限り、売主は既受領の手付金を不当利得として買主に返還する義務を負う。また、賃借人が賃貸人の承諾を得て建物に附合させた造作等は、民法242条ただし書の規定により、賃借人の所有権が留保される。
問題の所在(論点)
1. 売買契約が合意解除された場合、交付された手付金は返還対象となるか。 2. 賃借人が賃貸人の承諾を得て附合させた物の所有権は誰に帰属し、その解体補償金の受領権限は誰にあるか。
規範
1. 売買契約の合意解除に伴う原状回復義務:売買契約が合意解除された場合、当事者は原則として原状回復義務を負うため、既収の金員(手付金等)は買主に返還されるべきである。 2. 附合物に関する所有権の帰属(民法242条ただし書):不動産の所有者はその不動産に従として附合した物の所有権を取得するが、権原(賃貸借等)に基づいて附属させた物については、当該附属させた者に所有権が留保される。
重要事実
買主(被上告人)は、売主(上告人)との間で家屋の売買契約を締結し、内金(手付金)として8万2000円を交付した。その後、本件売買契約は合意解除された。また、被上告人は以前に本件建物を賃借しており、その際、上告人の承諾を得て下屋を附合させた。その後、当該下屋が解体され、被上告人が解体補償金を受領したところ、上告人が当該補償金の返還請求権を自働債権として、手付金返還債務と相殺する旨を主張した。
あてはめ
1. 本件売買契約は合意解除されているため、売主である上告人は受領済みの内金(手付金)を返還すべき義務がある。「手附流れ」の法理は契約解除権の留保等に関するものであり、合意解除の場合には適用されない。 2. 問題の下屋は、被上告人が賃借人として上告人の承諾を得て附合させたものである。民法242条ただし書に基づき、当該下屋の所有権は被上告人に留保される。したがって、その取毀に伴う解体補償金を取得すべき権限は被上告人本人にあり、上告人に対する返還義務は生じない。ゆえに、上告人による相殺の主張は前提となる債権を欠き、認められない。
結論
1. 合意解除により、売主は手付金を返還しなければならない。 2. 権原に基づき附合させた物の補償金は当該権原者に帰属するため、相殺は認められず、上告人の請求は棄却される。
実務上の射程
合意解除時の原状回復の範囲および民法242条ただし書の「権原」の解釈に関する基礎的判例である。答案上では、解除の効果(民法545条1項類推)として手付金返還を論じる際や、添付(附合)が生じた際の所有権帰属を検討する局面で、条文の趣旨を補強する根拠として用いる。
事件番号: 昭和39(オ)371 / 裁判年月日: 昭和40年8月24日 / 結論: 棄却
債務者は、債権者からの金員支払請求に対し右支払確保のために振り出された手形の返還と引換えに支払うべき旨の抗弁権を有する場合において、右手形の返還を受けていないときでも、当該債務の履行期を徒過している以上、履行遅滞の責任を負うべきである。