債務者は、債権者からの金員支払請求に対し右支払確保のために振り出された手形の返還と引換えに支払うべき旨の抗弁権を有する場合において、右手形の返還を受けていないときでも、当該債務の履行期を徒過している以上、履行遅滞の責任を負うべきである。
債務者が債権者からの金員支払請求に対し支払確保のため振り出された手形の返還との引換給付の抗弁権を有する場合と履行遅滞の成否。
民法412条,民法533条,手形法第2編
判旨
原因債務と手形返還の引換履行は、債務者の二重払いを防ぐための関係にすぎず、民法533条の同時履行の抗弁権が適用される対価的な関係ではない。したがって、債務者は手形の提供がないことを理由に履行遅滞の責任を免れることはできない。
問題の所在(論点)
原因債務(準消費貸借上の債務)の支払と、支払のために交付された手形の返還義務との間に民法533条の同時履行の抗弁権が成立するか。また、手形の返還がないことを理由に履行遅滞の責任を免れることができるか。
規範
原因債務(本件では準消費貸借に基づく債務)の支払義務と、支払確保のために振り出された手形の返還義務は、民法533条の双務契約上の対立した債権関係(対価的関係)にはない。この引換関係は、単に債務者の二重払いの危険を回避するために認められるものにすぎない。よって、特段の事情のない限り、債務者は手形の提供がない場合でも、履行期を徒過すれば履行遅滞の責を負う。
重要事実
上告人は、被上告人との間で立木の売買契約を締結し、その代金債務について準消費貸借契約を締結した。その支払確保のため、上告人は被上告人に本件各手形を振り出し交付した。その後、上告人は、立木の所有権を巡る錯誤や詐欺、瑕疵担保責任を主張して争ったが認められず、準消費貸借に基づく金員の支払を命じられた。その際、原審は手形との引換給付を命じたが、履行遅滞による損害金の発生を肯定したため、上告人が同時履行の抗弁権の存在等を理由に上告した。
あてはめ
本件における準消費貸借に基づく金員支払請求権と手形返還請求権は、対価的関係に立つ双務契約上の債権関係ではない。引換給付が命じられたのは、単に債務者が二重払いの危険に陥ることを避けるための便宜上の措置にすぎない。そうである以上、債務者が原因債務の履行期を徒過している場合には、たとえ手形の交付を受けていなくても、不履行についての帰責性が否定される理由はなく、当然に履行遅滞の責任を負うべきである。
結論
原因債務の支払と手形の返還は民法533条の関係になく、債務者は履行期徒過により履行遅滞の責任を負う。
実務上の射程
手形が交付されている場合でも、債務者は手形の提供がないことを理由に遅延損害金の発生を阻止できない。答案上は、民法533条の類推適用の可否を論ずる文脈で、対価的関係の欠如を理由に遅滞阻止効を否定する判例として引用する。
事件番号: 昭和38(オ)331 / 裁判年月日: 昭和40年6月17日 / 結論: 棄却
なんら現実の商取引がなく、受取人をして他から金融を得させる目的でいわゆる融通手形が振り出された場合において、振出人と受取人との間で、受取人が事実上その支払の責に任じ振出人がその責に任じないことを約したときは、右融通手形の授受のみによつては、当事者間に消費貸借が成立したものとはいえない。