貸金債務の支払確保のため債権者に小切手を交付した債務者は、特段の事由がないかぎり、右資金の支払は、小切手の返還と引換にすべき旨の同時履行の抗弁をなし得るものと解するを相当とする
小切手の原因債権に基く請求と小切手の返還義務との同時履行
小切手法第11章通則,民法533条
判旨
金銭債務の支払確保のために小切手が交付された場合、債務者は特段の事情がない限り、債権者の貸金請求に対し、当該小切手の返還と引換に支払うべき旨の抗弁(同時履行の抗弁)を主張し得る。
問題の所在(論点)
金銭債務の支払確保のために小切手が交付された場合において、債務者は債権者からの原因債権(貸金)の請求に対し、小切手の返還との同時履行を主張できるか。また、当事者が主張していない消滅時効の事実を裁判所が認定し、抗弁を排斥できるか。
規範
金銭債務の支払を担保・確保する目的で小切手が交付された場合、特段の事情がない限り、原因債務の履行と小切手の返還とは同時履行の関係に立つ。したがって、債務者は小切手との引換払いを主張することで、小切手による二重支払の危険を回避することができる。
重要事実
債権者(被上告人)は、債務者(上告人)に対し、貸金の返還を求めて訴えを提起した。債務者は、本件貸金債務の支払確保のために、額面10万円の小切手を債権者に交付していた。そこで債務者は、当該小切手の返還と引換に貸金を支払う旨の同時履行の抗弁を主張した。原審は、当該小切手の消滅時効が完成しているとして抗弁を排斥したが、時効の事実は当事者の主張がないものであった。
あてはめ
本件では、上告人が被上告人に対し、貸金債務の支払確保のために小切手を交付した事実が認められる。このような場合、債務者が二重支払の危険を免れる必要性があるため、引換払いの抗弁をなし得る。原審は、小切手の消滅時効完成を理由に抗弁を否定したが、時効は当事者の援用があって初めて機能するものであり、被上告人が主張していない時効完成の事実を基礎に抗弁を排斥した原判決には、弁論主義違反の違法がある。
結論
債務者は、小切手の返還と引換えに貸金を支払えば足りる。原判決を破棄し、小切手返還との引換給付を命じる自判を行う。
実務上の射程
手形・小切手が「支払のため」または「支払確保のため」に交付された場合に、原因債権の請求に対する引換払いの抗弁(同時履行の抗弁)を認める実務上の確立した規範である。答案上は、二重支払の危険防止という趣旨を付して論証する。また、本判決は弁論主義の観点からも重要であり、当事者の主張しない時効事実を認定できない点に留意する。
事件番号: 昭和33(オ)838 / 裁判年月日: 昭和36年6月23日 / 結論: 棄却
売買代金支払のため振出した小切手の振出人が、売買契約解除を理由として所持人遡求権行使による小切手金支払請求を拒否し得る場合には、右請求権を自動債権とする相殺は許されない。