債務者が抗弁として金銭債権が消滅時効の完成によつて消滅した旨を主張し、右抗弁が理由のある場合には、裁判所は、債権者において再抗弁として当該債務の弁済期の猶予があつた旨を主張しないかぎり、右猶予によつて消滅時効が完成しないものと判断することはできない。
金銭債権の消滅時効の不完全事由としての弁済期の猶予の立証責任
民法166条,民訴法186条
判旨
消滅時効の抗弁に対し、弁済期の猶予による時効完成阻止を判断するには、債権者による再抗弁としての主張・立証を要し、裁判所が当事者の主張しない猶予の事実を認定して抗弁を排斥することは弁論主義に違反する。
問題の所在(論点)
消滅時効の抗弁が提出された場合において、債権者から再抗弁として「弁済期の猶予」の事実の主張がないにもかかわらず、裁判所が職権で当該事実を認定し、時効完成を否定することは許されるか(弁論主義第1命題違反の有無)。
規範
弁論主義の下では、主要事実については当事者の主張を待たなければ裁判の基礎とすることができない。消滅時効の抗弁に対する弁済期の猶予は、時効期間の起算点を遅らせる、あるいは時効更新を基礎づける主要事実(再抗弁)にあたるため、債権者がその事実を主張・立証する責任を負い、主張がない限り裁判所はこれを認定できない。
重要事実
債権者(被上告人)が、主債務者に対する貸金債権に基づき、重畳的債務引受人(上告人)に対して支払を求めた事案。引受人は当該債権が消滅時効にかかっていると抗弁した。これに対し原審は、債権者による再抗弁の主張がないにもかかわらず、主債務について「弁済期の猶予」があった事実を認定し、時効は完成していないとして引受人の抗弁を一部排斥した。
あてはめ
本件において、上告人は貸金債権の消滅時効を有効に援用している。これに対し、弁済期の猶予という事実は、時効の完成を妨げる法的効果を生じさせる主要事実であるから、再抗弁として被上告人が主張すべきものである。しかし、訴訟記録を精査しても被上告人が猶予の事実を主張した事跡は認められない。それにもかかわらず原審がこの事実を認定して時効の抗弁を排斥したことは、当事者の主張しない事実を判決の基礎としたものであり、弁論主義の原則に違反するといえる。
結論
原判決中、弁論主義に違反して弁済期の猶予を認定した部分は破棄を免れない。したがって、本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
弁論主義が適用される主要事実の範囲に関する基礎的判例である。民事訴訟法の答案において、時効の起算点や猶予・更新に関する事実が主張されていない場合に、裁判所が職権でこれを考慮することの是非を論じる際の論拠となる。
事件番号: 昭和31(オ)553 / 裁判年月日: 昭和32年6月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告審において原審の証拠の取捨判断及び事実認定の適否を争うことは、単なる事実誤認の主張にすぎず、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:上告人が、原審における証拠資料の評価や事実認定のプロセスに不服があるとして、過去の判例を引用しつつ原判決の取消しを求めて上告した事案。 第2 問題の所在…