判旨
裁判所が当事者の主張しない事実を判決の基礎とした場合であっても、それが当事者の主張を排斥する理由として示された反対事実にすぎないときは、弁論主義に違反しない。
問題の所在(論点)
裁判所が当事者の主張しない事実を判決文に記載し、それに基づき主張事実を否定することが、弁論主義(第1テーゼ)に抵触するか。
規範
弁論主義の下では、裁判所は当事者の主張しない事実を判決の基礎とすることはできない。しかし、主要事実そのものではなく、当事者が主張する事実を否定するための間接事実や、主張事実と相容れない反対事実を認定することは、証拠による事実認定の合理性を説明する過程にすぎず、弁論主義には反しない。
重要事実
被告(上告人)らは、原告(被上告人)の株式引受にかかる立替金債権をもって本案債権と相殺した旨の抗弁を主張した。これに対し、第一審および原審は、被告らの供述は措信できず、むしろ他の証拠によれば被告らの主張する抗弁事実とは相容れない別の事実が認められるとして、抗弁を排斥した。被告らは、この認定が当事者の主張しない事実に基づいているとして、弁論主義違反を主張して上告した。
あてはめ
原審が認定した事実は、被告らが主張した相殺の抗弁の成立を否定するための資料として示されたものである。これは、被告らの主張事実を否定させる有力な証拠資料に基づき、抗弁事実が真実ではないとの確信を得る過程で判示された「反対事実」であると解される。したがって、このような文脈で当事者の主張と異なる事実を判示したとしても、直ちに裁判所が独自の事実を判決の基礎としたことにはならず、弁論主義に反するものではない。
結論
裁判所が主張と異なる事実を認定しても、それが相手方の主張を否定するための理由(証拠評価の過程)として示されたものである限り、弁論主義違反には当たらない。
実務上の射程
司法試験においては、弁論主義の適用範囲(主要事実か間接事実か)の議論と併せて、自由心証主義に基づく証拠評価の結果として導かれた反対事実の認定が、弁論主義の第1テーゼに抵触しないことを説明する際の根拠として用いる。主張事実の存否を判断するための補助的な事実認定の適法性を示す射程を有する。
事件番号: 昭和41(オ)30 / 裁判年月日: 昭和42年6月23日 / 結論: 破棄差戻
債務者が抗弁として金銭債権が消滅時効の完成によつて消滅した旨を主張し、右抗弁が理由のある場合には、裁判所は、債権者において再抗弁として当該債務の弁済期の猶予があつた旨を主張しないかぎり、右猶予によつて消滅時効が完成しないものと判断することはできない。