判旨
金員の現実の支払という主要事実が認められない場合には、受領者に代理権があるか否かといった法的論点を判断することなく、弁済の抗弁を排斥することができる。
問題の所在(論点)
弁済の抗弁において、金員の支払事実自体が認められない場合に、受領者の代理権限(受領権限)の有無について判断を示す必要があるか。また、その判断を欠いたまま抗弁を排斥することが判断遺脱や理由不備に当たるか。
規範
弁済の抗弁が成立するためには、債務者が債権者または受領権限を有する者に対して金員を現実に交付したという事実が必要である。抗弁を構成する前提事実である金員の現実の支払が証拠上認められない場合には、受領者の代理権の有無などの附随的法律問題について判断を示す必要はなく、直ちに当該抗弁を排斥して足りる。
重要事実
上告人は、債権者を代理する権限があると主張するDに対し、特定の日に金員を現実に支払ったとして弁済の抗弁を主張した。しかし、原審は上告人本人の供述を信用し難いとし、提出された書証(乙二乃至七号証)も作成事情から事実認定の資料として不十分であると判断した。その結果、金員の支払事実自体が確認できないとされた。
あてはめ
本件では、上告人が主張する「金員の現実の支払」という事実を認定するに足りる証拠が存しない。金員の交付という事実が存しない以上、その受領者とされるDに代理権があるかどうかを検討したとしても、弁済という法的効果が発生する余地はない。したがって、代理権の有無について認定判断をすることなく、上告人の弁済の抗弁を理由がないとして排斥した原審の判断は正当である。
結論
金員の現実の支払事実が認められない以上、受領者の代理権について判断することなく弁済の抗弁を排斥できる。原判決に判断遺脱や理由不備の違法はない。
実務上の射程
民事訴訟における事実認定の順序と理由具備の程度に関する判例である。主張された要件事実のうち、前提となる主要事実が否定される場合には、それに関連する他の争点(代理権の有無等)に言及しなくても理由不備とはならないことを示す実務上の指針となる。
事件番号: 昭和31(オ)1021 / 裁判年月日: 昭和33年3月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所は、当事者が提出した新抗弁事実に対し、既存の証拠によってそれと相容れない事実が認定できる場合には、当該抗弁や証拠調べを必要ないものとして退けることができる。 第1 事案の概要:上告人は、原審の第一回口頭弁論において新たな抗弁事実を陳述し、その立証のために人証を申請した。しかし、原審は当該申請…