判旨
金銭の交付が売買契約の証拠金として売主に交付されたに過ぎない場合、第三者がその交付を受け、または同一の経済的利益を受けたとは認められないため、当該第三者との間での消費貸借契約は成立しない。
問題の所在(論点)
売買契約の証拠金として売主に交付された金銭について、売主以外の第三者との間で消費貸借契約の成立が認められるか。特に、当該第三者が金銭の交付を受けた、またはそれと同一の経済的利益を受けたといえるか(消費貸借の成立要件である目的物の交付の成否)が問題となる。
規範
消費貸借契約(民法587条)が成立するためには、当事者間において、金銭その他の代替物を受け取り、後にこれと同一の物(同種類・同等・同量の物)を返還することを合意し、かつ、実際に金銭等の交付(要物性)がなされる必要がある。金銭の交付については、借主自身が直接受領するか、あるいは借主が受領したと評価できるだけの経済的利益の享受が認められなければならない。
重要事実
上告人は、売主である訴外会社との間で売買契約を締結する際、証拠金として50万円を交付した。上告人は、この50万円に関して被上告人との間に消費貸借契約が成立していると主張し、被上告人に対して貸金返還請求を行った。しかし、実際には当該金銭は売主たる訴外会社に交付されたものであった。
あてはめ
本件において、50万円は売買契約の証拠金として上告人から売主である訴外会社に交付されたに止まる。そうであるならば、被上告人がその50万円の交付を直接受けた事実は認められない。また、被上告人がその交付により50万円と同一の経済的利益を受けたという事情も認められない。したがって、上告人と被上告人との間には、消費貸借契約の不可欠の前提である「目的物の交付」または「受領と評価できる経済的利益の移転」があったとはいえない。
結論
上告人と被上告人との間に消費貸借契約の成立は認められない。したがって、貸金返還請求は認められず、上告棄却は正当である。
実務上の射程
消費貸借契約の成立を主張する場合の「交付」の要件について、名目上の当事者以外の者に金銭が流れているケースにおける反論・否定根拠として活用できる。特に、証拠金等の名目であくまで契約の相手方に交付されたに過ぎない事実は、第三者との間の消費貸借成立を否定する強力な徴表となる。
事件番号: 昭和39(オ)371 / 裁判年月日: 昭和40年8月24日 / 結論: 棄却
債務者は、債権者からの金員支払請求に対し右支払確保のために振り出された手形の返還と引換えに支払うべき旨の抗弁権を有する場合において、右手形の返還を受けていないときでも、当該債務の履行期を徒過している以上、履行遅滞の責任を負うべきである。