権利金の受領が地代家賃統制令により禁止されている場合において、借主が貸主に対し権利金の支払を約し、法律上その支払義務のないことを知りながらこれを支払つたときは、他に特段の事由のないかぎり、民法第七〇五条により、借主は右権利金の返還を請求することはできない。
地代家賃統制令違反の権利金の支払が非債弁済と認められた一事例
地代家賃統制令12条の2,民法705条
判旨
賃貸借契約の締結に際し、賃借人が法律上の支払義務がないことを知りながら自ら進んで権利金を支払った場合、民法705条(非債弁済)に基づき、その返還を請求することはできない。
問題の所在(論点)
法律上の支払義務がないことを知りながら任意に支払われた権利金について、賃借人は不当利得返還請求をすることができるか。民法705条の非債弁済の成否が問題となる。
規範
債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていたときは、その払戻しを請求することができない(民法705条)。また、当事者の合意において返還を要しない趣旨が含まれている場合、当該給付は確定的に受領者に帰属する。
重要事実
アパートの賃借人(上告人)は、賃貸借契約の締結にあたり、賃貸人(被上告人)に対し、自ら進んで「土産名義」として権利金を交付した。当事者間の約定では、この権利金は賃貸借終了の際にも返還を要しない趣旨であった。上告人は、法律上は支払義務がないことを認識しながら、あえて当該権利金を弁済した。
事件番号: 昭和30(オ)846 / 裁判年月日: 昭和33年2月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務が存在しないことを知りながら任意に弁済を行った場合、民法705条の非債弁済に該当し、不当利得返還請求権は否定される。公定賃料を超過する賃料の支払いであっても、支払義務がないことを認識していれば同条が適用される。 第1 事案の概要:賃借人(上告人)は、賃貸人との間において約定の賃料を支払う旨の契…
あてはめ
本件において上告人は、賃貸借契約締結時に権利金の支払を約し、それが法律上の義務でないことを知りながら「土産名義」で自ら進んで交付している。これは民法705条にいう「債務の存在しないことを知って」した弁済に該当する。また、当事者の意思解釈としても返還を要しない趣旨が明白であり、他に特段の事情も認められない。したがって、不法原因給付(民法708条)の成否を検討するまでもなく、非債弁済として返還請求は拒絶される。
結論
上告人は権利金の返還を請求することができない。原審が返還義務を否定したのは正当である。
実務上の射程
権利金や礼金等、授受の法的根拠が必ずしも明確でない名目の金銭であっても、支払者が義務のないことを知って任意に支払った場合には、民法705条により返還請求が封じられることを示した。答案上は、不当利得返還請求の抗弁として「非債弁済」を検討する際の具体的あてはめの参考となる。
事件番号: 昭和37(オ)731 / 裁判年月日: 昭和38年11月19日 / 結論: 棄却
(省略)