自筆遺言書が二葉にわたり、その間に契印がなく、綴じ合わされていなくても、第二葉には第一葉において譲渡する旨示した物件が記載されていて、両者は紙質を同じくし、いずれも遺言書の押印と同一の印で封印されて遺言者の署名ある封筒に収められている場合には、一通の遺言書と明認できる。
自筆遺言証書は契印編綴を要するか
民法968条
判旨
遺言書が数葉にわたる場合、その間に契印や編綴がなくても、内容及び外形の両面から一通の遺言書であると確認できる限り、当該遺言は有効である。また、全財産に近い物件を贈与・遺贈したとしても、公序良俗に反し無効とはならない。
問題の所在(論点)
1.数葉にわたる自筆証書遺言において、契印や編綴がないことが民法所定の方式違背として遺言を無効にするか。2.全財産を特定の者に遺贈する行為が公序良俗(民法90条)に反し無効となるか。
規範
自筆証書遺言が数葉にわたる場合、民法が定める方式の厳格性の趣旨は遺言者の真意を確保し偽造を防止する点にある。したがって、各葉の間に契印や編綴がない場合であっても、内容及び外形の両面から、それが一通の遺言書であることを客観的に明認できるときは、有効な遺言として認められる。また、特定の者に全財産を遺贈する行為は、遺留分減殺請求(現:遺留分侵害額請求)の対象となり得るにとどまり、当然に公序良俗に反して無効となるものではない。
重要事実
遺言者Dは、被上告人に対し、全財産に近い家屋敷や田畑を贈与した上で、さらに本件不動産及び動産を全部遺贈する旨の自筆証書遺言を作成した。本件遺言書は2葉にわたるものであったが、その間には契印がなく、綴じ合わされてもいなかった。しかし、第1葉と第2葉は同じ紙質であり、第2葉には第1葉で譲渡するとされた物件が具体的に記載されていた。さらに、両者は遺言書の押印と同一の印で封印され、遺言者の署名がある一つの封筒に収められていた。上告人は、方式違背による無効および公序良俗違反による無効を主張して争った。
あてはめ
1.本件遺言書は、第2葉が第1葉の記載内容を補完する関係にあり(内容的一体性)、紙質が同一でかつ遺言者本人の署名・封印がある封筒に一括して収められていた(外形的一体性)。これら内容・外形の両面からみて一通の遺言書であると明認できるため、方式の欠落(契印等の不在)は遺言の効力を左右しない。2.全財産に近い物件を遺贈する行為は、遺留分権利者による法的救済(減殺請求)が制度上予定されている。そのため、その内容が直ちに社会秩序に反するものとはいえず、公序良俗違反には当たらない。
結論
本件遺言は有効であり、公序良俗違反による無効も認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
遺言の方式緩和に関するリーディングケース。答案では「一通の遺言書としての連続性・一体性」の有無を判断基準とする際に引用する。契印・編綴がない場合でも、封筒による一体化や内容の連続性を具体的事実として拾い、偽造の危険がないことを論証する。また、不公平な遺贈については90条ではなく遺留分制度で解決すべきという原則を示す際にも活用できる。
事件番号: 昭和35(オ)1109 / 裁判年月日: 昭和37年5月24日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】自筆証書遺言の有効性判断において、全文の自書性に疑義がある場合や、押印の真正が争われている場合には、文書の体裁や発見の経緯、内容の不自然さを総合的に検討し、審理を尽くすべきである。 第1 事案の概要:亡Dの自筆とされる「分与証明書(乙1号証)」につき、被上告人は遺言書であると主張した。原審は鑑定等…