判旨
証拠の取捨選択および事実認定は事実審裁判所の裁量に属し、特定の鑑定書を採用しない理由を判決書に明示しなかったとしても、直ちに違法とはいえない。
問題の所在(論点)
事実審裁判所が証拠(鑑定書)を不採用とする際、その理由を判決書に記載する必要があるか。また、証拠の取捨選択が上告理由となる「法令の違背」に該当するか(自由心証主義の限界)。
規範
証拠の取捨および判断は、原事実審の裁量に属する。裁判所が特定の証拠(鑑定書等)を採用しない場合であっても、その取捨の理由を判決の理由に具体的に示すことを要するものではない。また、証拠の不採用が直ちに経験則に反すると評価されるものでもない。
重要事実
上告人は、亡Dが自筆証書遺言(乙1号証の2)を自筆したと主張し、それを支持する鑑定書を提出した。しかし、原審(二審)は当該鑑定書を採用せず、逆にD以外の者が自筆遺言書を擬装した疑いがあるとして、遺言の有効性を否定する趣旨の判断を下した。これに対し上告人は、鑑定書を不採用とした理由の不備や経験則違反、事実認定の違法を理由に上告した。
あてはめ
原判決が所論の鑑定書を採用しなかった点について、証拠の取捨は裁判所の裁量権の範囲内である。判決において不採用の理由を逐一説明する義務はなく、理由の不備という違法は認められない。また、原審が「D以外の者が擬装した疑いがある」と判断したことは、証拠の総合的な評価に基づくものであり、裁量の逸脱や経験則違反といった法令違背は認められない。
結論
本件上告は棄却される。証拠の取捨判断に関する原審の認定に違法はなく、判決理由の不備も認められない。
実務上の射程
自由心証主義(民訴法247条)に基づく事実認定の裁量を広く認める判例である。答案上は、事実認定の合理性を争う場面で、裁判所の広範な証拠選択の自由を裏付ける根拠として引用できる。ただし、現代の民事訴訟実務では、主要な証拠を排斥する場合には一定の理由付記が期待される点に留意が必要である。
事件番号: 昭和35(オ)1109 / 裁判年月日: 昭和37年5月24日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】自筆証書遺言の有効性判断において、全文の自書性に疑義がある場合や、押印の真正が争われている場合には、文書の体裁や発見の経緯、内容の不自然さを総合的に検討し、審理を尽くすべきである。 第1 事案の概要:亡Dの自筆とされる「分与証明書(乙1号証)」につき、被上告人は遺言書であると主張した。原審は鑑定等…
事件番号: 昭和63(オ)955 / 裁判年月日: 平成元年6月20日 / 結論: 破棄自判
自筆遺言証書における押印は、指印をもつて足りる。