判旨
自筆証書遺言の有効性判断において、全文の自書性に疑義がある場合や、押印の真正が争われている場合には、文書の体裁や発見の経緯、内容の不自然さを総合的に検討し、審理を尽くすべきである。
問題の所在(論点)
自筆証書遺言の真否が争われる場合において、筆跡鑑定や証言のみに基づき自書性を肯定し、押印の成否を判断せずに遺言の有効性を認めることは許されるか。
規範
自筆証書遺言(旧民法1068条、現行民法968条1項)が有効に成立するためには、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。遺言書とされる文書の真偽に疑義がある場合には、筆跡鑑定のみならず、記載内容の合理性、保管・発見の状況、押印が遺言者自身の印章によるものか否か等の諸点について、経験則に照らした合理的な説明が必要である。
重要事実
亡Dの自筆とされる「分与証明書(乙1号証)」につき、被上告人は遺言書であると主張した。原審は鑑定等を根拠に真性を認めたが、(1)被上告人が重要書類であるはずの封筒を投げ捨てたという不自然な行動、(2)発見者が被上告人の40歳到達後も長期間手交しなかった不合理、(3)実の父がわが子を「四男」と書き間違えた点(実際は五男)、(4)D名下の印影が自身の印章によるものか争われている点、について十分な検討を行わなかった。
あてはめ
本件乙1号証は、内容面で実子を「四男」と「五男」で取り違えるという、父が作成した文書としては極めて不自然な記載がある。また、発見から手交までの経緯や、受領後の被上告人の不可解な挙動についても、他に納得できる説明がない限り真実性に欠ける。さらに、遺言の要件である押印につき、上告人がD自身の印章ではないと強く争っているにもかかわらず、原審がこの点を確認せず、鑑定等のみで漫然と自書性を認定したのは、経験則に照らした審理不尽・理由不備があるといえる。
結論
乙1号証がDの自筆によるものか否かにつき、内容の合理性や押印の真正を検討せずに有効とした原判決には、審理不尽、理由不備の違法があるため、破棄・差戻しを免れない。
実務上の射程
自筆証書遺言の成立要件(自書・押印)の解釈に関する規範として機能する。特に、筆跡が似ていても内容や状況に不自然さがある場合に、事実認定の段階でいかに反論を組み立てるかという実務上の指針となる。答案上は、形式的要件(968条1項)の充足性を検討する際の「自書」や「押印」の成否を巡る事実認定の論理として活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)191 / 裁判年月日: 昭和33年10月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証拠の取捨選択および事実認定は事実審裁判所の裁量に属し、特定の鑑定書を採用しない理由を判決書に明示しなかったとしても、直ちに違法とはいえない。 第1 事案の概要:上告人は、亡Dが自筆証書遺言(乙1号証の2)を自筆したと主張し、それを支持する鑑定書を提出した。しかし、原審(二審)は当該鑑定書を採用せ…
事件番号: 昭和63(オ)955 / 裁判年月日: 平成元年6月20日 / 結論: 破棄自判
自筆遺言証書における押印は、指印をもつて足りる。