所有者から物の占有権限を伝来取得したと主張する占有者は、前主たる所有者に対して民法第一八八条の権利推定を援用しえないと同様に、右所有者の包括承継人に対しても、これを援用できない。
所有者から占有権限を伝来取得したと主張する占有者は所有者の包括承継人に対し民法第一八八条の権利推定を援用しうるか
民法188条
判旨
動産の占有者は、権利の前主たる所有者やその包括承継人に対して民法188条の権利推定を援用できない。また、民法192条の即時取得は前主から占有を承継した場合にのみ適用され、前主が占有を有しない場合には適用されない。
問題の所在(論点)
1. 占有者が、権利の伝来元(前主)の包括承継人に対して民法188条の権利推定を援用できるか。2. 前主が占有を有していない場合に、民法192条の即時取得が成立するか(即時取得の適用の要件として前主の占有承継が必要か)。
規範
1. 民法188条の権利推定は、第三者に対する関係で認められるものであり、占有者がその権利を伝来したと主張する前主(所有者)およびその包括承継人に対しては援用できない。2. 民法192条は、処分権限のない動産の占有者を権利者と誤信して取引した相手方を保護する規定であるため、相手方が「前主より占有を承継した場合」にのみ適用される。
重要事実
上告人は、Dから本件動産の所有権を取得したと主張してこれを占有していた。これに対し、Dの包括承継人である被上告人らが、上告人に対して当該動産の権利を主張した。上告人は、自らが占有していることを根拠に、民法188条による権利の推定、および民法192条による即時取得の成立を主張して対抗した。なお、上告人が主張する取引において、前主が占有を有していたかについては原審により否定的な判断がなされていた。
あてはめ
1. 上告人は、Dから権利を取得したと主張している以上、Dは権利の前主にあたる。したがって、Dの包括承継人である被上告人らとの関係では、上告人は188条による権利推定を享受できない。2. 民法192条は取引の安全を図る趣旨であり、前主の占有を信頼して取引に入った者を保護するものである。本件では、上告人が前主から占有を承継したとは認められない(または前主に占有がない)ため、同条の適用要件を欠くといえる。
結論
上告人は被上告人らに対して民法188条の推定を援用できず、また民法192条による所有権取得も認められない。したがって、上告人の請求(または主張)は認められない。
実務上の射程
動産の物権変動において、前主・後主間や相続人等の包括承継人間では188条による立証責任の転換は起きないことを明示した。また、即時取得の成立には「前主が占有していたこと」が必要であるという『占有の承継』要件を確定させており、無権利者であっても少なくとも占有者である必要があることを示す事案である。
事件番号: 昭和32(オ)1092 / 裁判年月日: 昭和35年2月11日 / 結論: 棄却
占有取得の方法が外観上の占有状態に変更を来たさない占有改定にとどまるときは、民法第一九二条の適用はない。
事件番号: 昭和38(オ)1027 / 裁判年月日: 昭和39年10月16日 / 結論: 棄却
控訴審が第一審と同一の証拠資料をもつて心証を異にしても、何ら違法でない。