一 売渡人以外の者から買受物件の占有移転を受けた場合には、その者が売渡人の占有代理人であるようなときでなければ、買受人は右物件を善意取得できない。 二 荷渡依頼書の交付によつて、これに記載された物件の所有権が被交付者に移転するものとは解せられない。
一 民法第一九二条の占有取得の相手方 二 荷渡依頼書の交付によつて貨物の所有権は移転するか
民法192条,商法519条
判旨
民法192条の即時取得が認められるためには、譲受人が売渡人(前主)から直接占有の移転を受けるか、売渡人の占有代理人から占有の移転を受ける必要がある。売渡人以外の第三者から占有の移転を受けたとしても、当該第三者が売渡人の占有代理人と認められない限り、即時取得は成立しない。
問題の所在(論点)
売渡人(前主)以外の第三者から目的物の占有移転を受けた場合に、民法192条に基づく即時取得が成立するか。特に、占有移転の相手方が売渡人の占有代理人と認められない場合の成否が問題となる。
規範
民法192条の適用により動産の所有権を取得するためには、取引行為によって平穏かつ公然に動産の占有を始めたことが必要である。この「占有を始めた」といえるためには、譲受人が売渡人から占有の移転を受けるか、または売渡人の占有代理人から占有の移転を受けることを要する。
重要事実
上告人は、訴外E社から本件物件を買い受けた。本件物件の所有権について、上告人は、仮にE社が所有権を有していなかったとしても、民法192条により即時取得したと主張した。しかし、上告人が実際に占有の移転を受けた相手方は、売渡人であるE社ではなく、訴外D社であった。
事件番号: 昭和35(オ)998 / 裁判年月日: 昭和37年4月20日 / 結論: 棄却
所有者から物の占有権限を伝来取得したと主張する占有者は、前主たる所有者に対して民法第一八八条の権利推定を援用しえないと同様に、右所有者の包括承継人に対しても、これを援用できない。
あてはめ
本件において、上告人は売渡人であるE社ではなくD社から占有の移転を受けている。D社がE社の占有代理人として本件物件を占有していたという事実は認められない。したがって、売渡人以外の者から占有の移転を受けたに過ぎない上告人について、民法192条により所有権を取得すると解する根拠はない。また、荷渡依頼書の交付のみをもって所有権が移転したと解することもできない。
結論
上告人は民法192条により本件物件の所有権を取得したとは認められない。
実務上の射程
即時取得の成立要件である「占有を始めた」の判断において、前主と占有取得の相手方との関係性を厳格に求めるものである。取引の安全を図る制度である以上、有効な取引関係(前主からの承継)に基づかない占有取得は保護されないことを示しており、答案上は「取引行為による占有取得」の意義を基礎づける際に活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)1092 / 裁判年月日: 昭和35年2月11日 / 結論: 棄却
占有取得の方法が外観上の占有状態に変更を来たさない占有改定にとどまるときは、民法第一九二条の適用はない。