判旨
動産の所有権に基づく返還請求において、売買による所有権取得を主張していても、当然に即時取得による所有権取得の事実をも主張しているものとは解されない。
問題の所在(論点)
所有権に基づく動産返還請求において、特定の売買契約による所有権取得を主張している場合に、裁判所は、当事者の主張がないにもかかわらず即時取得による所有権取得の成否について判断すべきか。
規範
当事者が係争動産の売買による所有権取得を主張して本訴請求をしている場合であっても、裁判所は、当事者が当然に即時取得による所有権取得の事実をも主張しているものと解すべきではない(弁論主義の適用)。
重要事実
補助参加人Cと訴外Dとの間で、代金全額の支払と同時に所有権が移転する旨の特約付きで本件動産の売買契約が締結された。Dは代金の一部を支払わなかったため、C・D間の合意により契約が解除され、所有権はDに移転していなかった。上告人は、原審において所有権に基づく返還請求のみを主張していたが、上告審に至り、即時取得(民法192条)による所有権取得の主張を原審が判断しなかったことを違法として争った。
あてはめ
上告人が原審で主張していた請求原因は、所有権に基づく返還請求のみであり、その基礎となる事実は売買契約による所有権取得であった。即時取得は、原始取得という別個の権利発生原因に基づくものであり、その要件となる事実(善意・無過失等)は、通常の承継取得の主張とは異なる構成を必要とする。上告人が原審でこれに関する主張を何らしていない以上、裁判所が即時取得の存否について判示しなかったことに違法はない。
結論
即時取得の主張がなされていない以上、裁判所がこれについて判断しなかったことに違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
弁論主義の観点から、所有権という権利の主張があっても、その発生原因(要件事実)が異なる場合には別個の主張として扱う必要があることを示す。即時取得は「無権利者からの取得」という特殊な構成をとるため、通常の承継取得の主張に含まれることはない。答案上は、予備的主張として即時取得を構成し忘れた場合の救済の可否(裁判所の釈明義務の程度等)を検討する際の前提知識として活用できる。
事件番号: 昭和24(オ)106 / 裁判年月日: 昭和26年11月27日 / 結論: 棄却
一 民法第一九二条にいわゆる「善意ニシテ且過失ナキトキ」とは、動産の占有を始めた者において、取引の相手方がその動産につき無権利者でないと誤信し且つかく信ずるにつき過失のなかつたときのことをいい、その動産が統制品であるにかかわらず、割当証明書によらないで買い受けたという事実は、右の善意無過失を決するための要件とならない。…
事件番号: 昭和32(オ)1092 / 裁判年月日: 昭和35年2月11日 / 結論: 棄却
占有取得の方法が外観上の占有状態に変更を来たさない占有改定にとどまるときは、民法第一九二条の適用はない。