動産の強制競売において代金が執行吏に交付されてその集計点検中に、競売物件につき所有権を主張する第三者が現われたが、執行吏がこれを取り上げず、そのまま代金の授受を終り、競落物件の引渡しがなされた等判示の事情がある場合には、競落人がたとえ右主張のあつた事実を知つていても、民法第一八六条第一項の善意の推定を覆えすには足りず、また、他に特段の事情のないかぎり、競落人において右動産の所有権者を確認するための調査をしなかつたとしても過失があるとはいえない。
動産の強制競売における競落人の善意無過失が認められた事例。
民法186条1項,民法192条,民訴法577条2項
判旨
動産の強制競売において、競落人は第三者の所有であることを疑うに足りる特段の事情がない限り、所有権者を確認すべき調査義務を負わず、その不知につき無過失と解される。競落代金の支払直後の異議申出があっても、直ちに善意・無過失の推定は覆されない。
問題の所在(論点)
動産の強制競売において、代金支払直後に第三者から所有権の主張があった場合、競落人に民法192条の「無過失」が認められるか。また、競落人に所有権の調査義務が課されるか。
規範
動産の強制競売における競落人は、目的物が債務者の所有に属し、執行吏に競売権限があると信じるのが通常である。したがって、競落人が目的物が第三者の所有に属することを確認するための調査義務を負うのは、第三者の所有であることを疑うに足りる特段の事情がある場合に限られ、それがない限り、調査を怠ったとしても無過失(民法192条)と認められる。
重要事実
Dは上告人から10万円を借り、本件物件を譲渡した上で賃借して使用していた。その後、当該物件につき強制競売が実施され、Eが競落した。Eが執行吏に競落代金を支払い、執行吏が点検中という段階で、上告人が来場して自己の所有権を主張し、競売手続の中止を申し出た。Eはその申出を了知したが、執行吏はこれを取り合わず代金受領を完了して物件をEに引き渡した。その後、Eから本件物件を買い受けた被上告人に対し、上告人が所有権を主張した。
事件番号: 昭和35(オ)998 / 裁判年月日: 昭和37年4月20日 / 結論: 棄却
所有者から物の占有権限を伝来取得したと主張する占有者は、前主たる所有者に対して民法第一八八条の権利推定を援用しえないと同様に、右所有者の包括承継人に対しても、これを援用できない。
あてはめ
本件では、Eが代金を支払い、執行吏が点検中という「きわどい段階」で上告人の申出がなされたに過ぎない。このような状況下では、たとえEが上告人の申出を了知したとしても、直ちに第三者所有の事実を知っていたと即断はできない。また、公的な競売手続の信頼性に鑑みれば、この程度の申出は、競落人に所有権の存否を調査すべき義務を課す「特段の事情」には当たらないといえる。したがって、Eが調査を行わずに債務者Dの所有と信じたことには過失がなく、善意無過失の推定は覆されない。
結論
競落人Eは民法192条により即時取得によって適法に所有権を取得しており、その承継人である被上告人も所有権を取得する。上告人の請求は認められない。
実務上の射程
民法192条の「無過失」の判断、特に強制競売という公的手続が介在する場合の調査義務の限界を示す。答案では、即時取得の要件検討において、強制競売という特殊性を「特段の事情」の有無という枠組みで処理する際に活用すべき判例である。
事件番号: 昭和24(オ)106 / 裁判年月日: 昭和26年11月27日 / 結論: 棄却
一 民法第一九二条にいわゆる「善意ニシテ且過失ナキトキ」とは、動産の占有を始めた者において、取引の相手方がその動産につき無権利者でないと誤信し且つかく信ずるにつき過失のなかつたときのことをいい、その動産が統制品であるにかかわらず、割当証明書によらないで買い受けたという事実は、右の善意無過失を決するための要件とならない。…