民法第一九二条により動産の上に行使する権利を取得したことを主張する占有者は、同条にいう「過失ナキ」ことを立証する責任を負わない。
民法第一九二条にいう「過失ナキ」ことの立証責任
民法192条
判旨
民法192条の「過失なきとき」とは、譲受人が譲渡人の権利を誤信したことにつき過失がないことを指し、民法188条の推定規定により譲受人側で無過失を立証する必要はない。
問題の所在(論点)
民法192条の即時取得における「無過失」の意義、およびその立証責任が誰にあるか。
規範
民法192条にいう「過失なきとき」とは、譲渡人である占有者が権利者たる外観を有しているため、譲受人がその外観に対応する権利があるものと誤信し、かつ、このように信ずるについて過失のないことをいう。もっとも、民法188条により占有者が占有物の上に行使する権利は適法に有するものと推定されるため、譲受人たる占有取得者が無権利であることを知らぬことにつき過失がないことも推定される。したがって、占有取得者自身において自己の無過失を立証することを要しない。
重要事実
総トン数20トン未満の不登記船舶について、訴外Dが執行吏による競売手続を通じて競落したが、当該手続には瑕疵があったため、Dは有効に所有権を取得していなかった。その後、被上告人BがDから当該船舶を買い受けた。本件は、Bが即時取得(民法192条)により所有権を取得したかが争点となり、特にBの「無過失」に関する主張立証責任が問題となった。
あてはめ
本件では、公的な執行吏によって船舶の競売手続がなされていた。このような場合、一般に船舶の所有権が競落人に移転するものと信じるのは通常であるといえる。したがって、無権利者であったDから買い受けたBにおいて、Dが所有権を取得していないことを知らなかったとしても、その信頼には合理的な根拠がある。民法188条の推定に基づき、BがDを正当な権利者と信じたことについて過失があったと認めるべき特段の事情はないため、Bは無過失であると評価される。
結論
被上告人Bは無過失と推定され、これを覆す事情がない限り、民法192条に基づき本件船舶の所有権を即時取得する。
実務上の射程
即時取得の要件のうち「無過失」の立証責任を転換させた重要判例である。答案上は、192条の要件を検討する際、188条を援用して「譲受人の無過失は推定されるため、即時取得を否定する側が譲受人の過失を主張立証しなければならない」という論証の根拠として用いる。
事件番号: 昭和38(オ)204 / 裁判年月日: 昭和39年5月29日 / 結論: 棄却
動産の強制競売において代金が執行吏に交付されてその集計点検中に、競売物件につき所有権を主張する第三者が現われたが、執行吏がこれを取り上げず、そのまま代金の授受を終り、競落物件の引渡しがなされた等判示の事情がある場合には、競落人がたとえ右主張のあつた事実を知つていても、民法第一八六条第一項の善意の推定を覆えすには足りず、…
事件番号: 昭和27(オ)901 / 裁判年月日: 昭和29年5月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民事上告事件において、上告理由が判例違反に当たらず、単なる事実誤認や訴訟法違背の主張にとどまる場合は、上告棄却の対象となる。特例法に基づく重要な法令解釈の主張も含まれない場合には、上告を維持することはできない。 第1 事案の概要:上告人は、原審の判断に対し、判例違反および訴訟法違背、事実誤認を理由…