裁判所が、被告に損害賠償義務のあることを認めながら、損害額の立証がないという理由で損害賠償請求を排斥しても、釈明権不行使または審理不尽の違法があるとはいえない。
損害賠償請求訴訟において損害額につき立証がない場合と裁判所の釈明義務
民訴法127条
判旨
特定物引渡義務の不履行に基づく損害賠償請求において、債権者は損害発生の事実のみならず損害額をも立証する責任を負い、裁判所は立証がない場合に職権で損害額を審究する義務を負わない。
問題の所在(論点)
特定物引渡義務不履行に基づく損害賠償請求において、金銭債務不履行の特則(法定利率)の適用の有無、および損害額の立証責任と裁判所の職権探知義務の範囲が問題となった。
規範
損害賠償を請求する者は、損害発生の事実だけでなく、損害の数額についても立証責任を負う。裁判所は、当事者が提出した証拠に基づき損害額の証明の有無を判定すべきであり、立証が不十分であると認めたときは請求を棄却すべきであって、職権で鑑定を命じる等して損害額を審究すべき義務を負うものではない。
重要事実
上告人は、相手方が本件船舶の引渡義務を履行しなかったとして、これによって生じた損害(賃料相当額)の賠償を請求した。上告人は、賃料が月額1万5000円であると主張し証拠(証人供述等)を提出したが、原審は、当該証拠からは定額の賃料合意があったとは認められず、他に損害額算定の基礎となる事実の主張立証もないとして、請求を棄却した。これに対し、上告人が審理不尽や釈明権不行使があるとして上告した事案である。
あてはめ
まず、本件は船舶という特定物の引渡義務不履行を理由とするものであり、金銭債務の不履行ではないから、民法419条(法定利率による損害賠償)の適用はなく、釈明の必要もない。次に、損害賠償請求の要件として、損害額の立証は債権者が負うべきものである。本件において、上告人は月額1万5000円の損害を主張したが、提出された証拠(甲第2号証等)によれば「歩分(歩合)」による借受料の定めしか認められず、主張する損害額の立証がなされたとはいえない。したがって、裁判所がそれ以上に職権で鑑定を行うなどの審究をせず請求を棄却したことに、違法はないと解される。
結論
損害額の立証責任は請求者側にある。主張する損害額を裏付ける証拠が不十分であり、他に算定の基礎となる事実の主張立証もない以上、裁判所は直ちに請求を棄却することができ、審理不尽の違法はない。
実務上の射程
金銭債務以外の債務不履行における損害賠償の立証責任を明確にしたもの。司法試験においては、損害論における立証責任の所在を確認する際に活用できる。特に、損害額の算定が困難な場合であっても、裁判所に職権鑑定義務がないことを示す論拠として有効である(なお、民訴法248条の損害額算定規定との関係に留意が必要だが、本判決は同条制定前のものである)。
事件番号: 昭和39(オ)550 / 裁判年月日: 昭和41年6月9日 / 結論: 棄却
民法第一九二条により動産の上に行使する権利を取得したことを主張する占有者は、同条にいう「過失ナキ」ことを立証する責任を負わない。
事件番号: 昭和27(オ)901 / 裁判年月日: 昭和29年5月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民事上告事件において、上告理由が判例違反に当たらず、単なる事実誤認や訴訟法違背の主張にとどまる場合は、上告棄却の対象となる。特例法に基づく重要な法令解釈の主張も含まれない場合には、上告を維持することはできない。 第1 事案の概要:上告人は、原審の判断に対し、判例違反および訴訟法違背、事実誤認を理由…