木造帆船の買主が、売買契約解除前支出した修繕費の償還請求権につき右船を留置する場合において、これを遠方に航行せしめて運送業務のため使用することは、たとえ解除前と同一の使用状態を継続するにすぎないとしても、留置物の保存に必要な使用をなすものとはいえない。
民法第二九八条第二項但書にいわゆる留置物の保存に必要な使用
民法196條,民法295條,民法298條
判旨
留置権者が、所有者の承諾なく留置物である船舶を遠距離にわたり航行させて貨物運送業務に従事させる行為は、留置物の保存に必要な限度を逸脱するものであり、留置権消滅請求の対象となる。
問題の所在(論点)
留置権者が債務者の承諾なく留置物である船舶を遠距離航行させ、運送業務に使用することが、民法298条2項但書にいう「留置物の保存に必要な限度」に含まれるか。
規範
留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用についてはこの限りではない(民法298条2項)。この「保存に必要な使用」とは、物の現状を維持するために客観的にみて必要とされる範囲内の使用を指し、その限度を逸脱した使用は不法なものとして、債務者による留置権消滅請求(同条3項)の事由となる。
重要事実
上告人は、被上告人との間で船舶(昭和8年進水の木造帆船)の売買契約を締結し、修繕費等を支出したが、契約解除後も当該船舶を留置していた。上告人は、被上告人の承諾を得ることなく、当該船舶を名古屋・大阪から遠く離れた山口県方面にまで航行させ、貨物運送業務に従事させて運賃収益を得ていた。これに対し、被上告人は留置権の消滅を請求した。
あてはめ
本件において、上告人が行っていた使用形態は、単なる現状維持のための管理にとどまらず、船舶を遠距離にわたる航行に供し、積極的に営業収益を上げるものである。たとえ契約解除前から継続していた使用形態であったとしても、昭和8年進水の老朽化した木造船舶を遠距離航行させることは、航行に伴う特有の危険性を伴う。したがって、このような船舶の使用は、客観的にみて「保存に必要な限度」を逸脱した不法な使用であると評価される。
結論
上告人の使用は保存に必要な範囲を超えた不法なものであるため、被上告人のなした留置権消滅請求は有効であり、留置権は消滅する。
実務上の射程
船舶や車両など、使用自体が摩耗や毀損の性質を有する動産について、債務者の承諾なき営業的利用が保存行為(298条2項但書)にあたらないことを明示した事例である。答案上は、保存行為の意義を限定的に解釈する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和39(オ)748 / 裁判年月日: 昭和40年7月15日 / 結論: 破棄差戻
一 修理工場を設けて自動車の修理業を営む会社が自動車の修理によつて得た修理料債権は、民法第一七三条第二号所定の居職人の仕事に関する債権にあたらない。 二 留置物の第三取得者も、民法第二九八条第三項により留置権の消滅を請求できる。