一 民法第一九二条にいわゆる「善意ニシテ且過失ナキトキ」とは、動産の占有を始めた者において、取引の相手方がその動産につき無権利者でないと誤信し且つかく信ずるにつき過失のなかつたときのことをいい、その動産が統制品であるにかかわらず、割当証明書によらないで買い受けたという事実は、右の善意無過失を決するための要件とならない。 二 民法第一九四条により被害者が盗品を回復することを得る場合において、その回復請求前その物が滅失したときは、右の回復請求権は消滅するのみならず、被害者は回復に代る賠償をも請求することはできない。
一 民法第一九二条にいゆる善意無過失の意義 二 民法第一九四条の回復請求権と物の滅失。
民法192条,民法194条
判旨
民法192条の「善意にして且つ過失なき」とは、取引の相手方が無権利者でないと誤信し、そう信じるに過失がないことを指し、統制法規違反等があっても直ちに過失とはならない。また、同法193条、194条に基づく盗品等の回復請求は、対象となる動産が現存することを要する。
問題の所在(論点)
1. 統制法規に違反して動産を買い受けた場合、民法192条の「無過失」の要件が否定されるか。 2. 民法193条、194条に基づく盗品等の回復請求において、目的物の現存は必要か。
規範
1. 民法192条にいう「善意にして且つ過失なき」とは、動産の占有を開始した者において、取引の相手方がその動産につき無権利者でないと誤信し、かつ、そのように信じるにつき過失がなかったことを意味する。対象動産が盗品である場合であっても、これ以上の要件を必要とするものではない。 2. 民法193条、194条による占有物の回復請求は、当該占有物が現存していることを前提とする。
重要事実
上告人(原告)所有の電気銅が盗まれ、被上告人(被告)はこれを同種の物品を販売する商人Dから買い受け、占有を取得した。上告人は、被上告人の買受けが割当証明書によらない法令(統制法規)違反の不法行為であるから、被上告人には過失があり即時取得は成立しないと主張した。また、上告人は所有権に基づき電気銅の返還を求めたが、訴訟の過程で当該電気銅が既に消費され現存しないことが自白により明らかとなった。
あてはめ
1. 即時取得の成否について、無過失とは「相手方が無権利者でないと誤信したこと」についての過失の有無をいう。本件では、被上告人が電気銅を買い受けるに際し、それが盗品であること(Dが無権利者であること)を知らず、かつ、知らないことにつき過失がなかったと認められる。統制法規違反の事実は、直ちに「相手方が無権利者であること」を予見すべき過失には結びつかない。 2. 回復請求の成否について、回復請求権は特定の物の返還を求める権利である。本件電気銅は既に消費されて現存しないことが当事者間の自白により確定しているため、もはや回復請求の対象とはなり得ない。
結論
1. 被上告人の即時取得(民法192条)は成立し、過失があるとはいえない。 2. 目的物が現存しない以上、民法194条に基づく回復請求は認められない。
実務上の射程
即時取得の「善意・無過失」の対象を「相手方の処分権限」に限定し、公法上の規律違反などの属性が直ちに過失を構成しないことを明確にしている。また、193条・194条の請求が「現存」を要件とする点は、物権的請求権の性質(特定の物に対する支配)から導かれる帰結として実務上確立している。
事件番号: 昭和38(オ)204 / 裁判年月日: 昭和39年5月29日 / 結論: 棄却
動産の強制競売において代金が執行吏に交付されてその集計点検中に、競売物件につき所有権を主張する第三者が現われたが、執行吏がこれを取り上げず、そのまま代金の授受を終り、競落物件の引渡しがなされた等判示の事情がある場合には、競落人がたとえ右主張のあつた事実を知つていても、民法第一八六条第一項の善意の推定を覆えすには足りず、…
事件番号: 昭和25(オ)107 / 裁判年月日: 昭和27年2月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】動産の即時取得(民法192条)において、譲受人が譲渡人の無権利について無過失であるというためには、譲渡人の立場や取引物件の重要性等に照らし、譲渡人が所有権を有するか否かを確認すべき調査義務を尽くす必要がある。 第1 事案の概要:炭鉱の事実上の責任者のような立場にあったDは、真の権利者であるBの使用…