判旨
試験的視聴期間を設けた売買(試用販売)において、買主が期間経過後も買受の意思表示をせず、目的物を第三者に引き渡した場合は、承諾の拒絶とみなされず、返還義務または損害賠償責任を免れない。
問題の所在(論点)
試験的視聴を目的として受領した物品につき、買主が承諾の意思表示をせず、かつ返還もせずに第三者へ転送した場合の法的責任の成否が問題となる。
規範
試用販売(民法548条参照)において、買主が試用期間内に買受けの意思表示をしない場合であっても、目的物の返還を拒み、あるいはこれを第三者に処分・引渡したときは、単なる沈黙による承諾の擬制(民法548条2項)の枠組みを超え、所有権者(売主)に対する返還不能による不法行為または債務不履行責任を構成する。
重要事実
上告会社(買主)は、被上告会社(売主)からテレビ受像器を「月末まで視聴して調子が良ければ15万円で購入する」との約定で預かり、受領証を差し入れた。しかし、上告会社は試験視聴期間が経過した後の昭和28年8月になっても、被上告会社の請求に拘らず買受けの意思表示をせず、かつ目的物の返還も行わなかった。そればかりか、同年8月17日に当該テレビ受像器を訴外会社へ引き渡してしまった。
あてはめ
本件では、上告会社と被上告会社との間に、試験視聴の結果次第で代金を支払うという売買予約的性格を持つ契約が存在し、上告会社は目的物を保管・返還すべき地位にあった。試験視聴期間が終了した以上、上告会社は買受けない場合には返還義務を負う。しかるに、上告会社は買受けの意思表示を明確にしないまま、目的物の占有を第三者に移転させており、これは被上告会社の所有権に基づく返還請求を妨げる行為である。したがって、上告会社が寄託関係や適法な処分権限を主張しても、現実の占有移転がない限り認められず、目的物の引渡し(処分)について責任を免れることはできない。
結論
上告会社は目的物の返還義務に違反し、または不法に第三者に引き渡したものであり、被上告会社に対する責任を免れないとした原判決は妥当である。
実務上の射程
試用販売において、買主が『買わない』と沈黙しつつも目的物を処分した場合に、承諾の拒絶を理由とする返還義務の存否を論じる際に活用できる。また、要物契約としての寄託の成否において、現実の引渡しを欠く概念的な占有移転(指図による占有移転等)が認められない場合の判断材料にもなる。
事件番号: 昭和24(オ)106 / 裁判年月日: 昭和26年11月27日 / 結論: 棄却
一 民法第一九二条にいわゆる「善意ニシテ且過失ナキトキ」とは、動産の占有を始めた者において、取引の相手方がその動産につき無権利者でないと誤信し且つかく信ずるにつき過失のなかつたときのことをいい、その動産が統制品であるにかかわらず、割当証明書によらないで買い受けたという事実は、右の善意無過失を決するための要件とならない。…