履行に代わる損害賠償額を時価により算定するにあたり、裁判所が債務の履行期および不履行の時期を確定せず、漫然、訴提起後のある時期における時価を基礎とし、結局、右算定の基準とされた時期が、当該債務不履行と如何なる関係にあるか判文上不明の場合は理由不備の違法があるというべきである。
損害賠償額算定の時期について理由不備の違法があるとされた一事例
民法416条
判旨
債務不履行による損害賠償額の算定には、具体的な債務不履行の発生時期の確定が不可欠であり、理由なく将来の特定時期の価格を基準とすることは許されない。
問題の所在(論点)
債務不履行に基づく損害賠償額の算定において、履行期の定めのない債務について不履行の時期を確定せずに、将来の特定時点の価格を基準に賠償額を算定することの可否。
規範
債務不履行に基づく損害賠償(民法415条、416条)において、履行に代わる損害(填補賠償)の額を算定するには、債務者がいかなる時期に債務不履行に陥ったかを確定しなければならない。損害賠償額は原則として不履行時の価額を基準とすべきであり、格別の理由なく後日の価格を基準として算定することは、理由不備として許されない。
重要事実
受任者(上告人)は、委任契約に基づき軸受を買い受けて委託者(被上告人)に引き渡すべき義務を負っていたが、一部を引き渡さず、また一部については買上げ自体を怠ったため、目的物が散逸し履行不能となった。原審は、委任事務処理の履行期を特定しないまま、履行不能から数年経過した「昭和27年2月当時」の価格を基準に損害賠償額を算出した。
あてはめ
本件委任契約において、いつまでに軸受の買上・引渡しをすべきかという履行期が確定されていない。履行期が不明であれば、いつ債務不履行(履行不能)が発生したかを明らかにできず、賠償額算定の基準時も定まらない。原審が算定基準とした「昭和27年2月」が、不履行時や特別損害の予見可能性(416条2項)等の観点からいかなる意味を持つ時期であるかについて、説示が欠けている。
結論
原判決には理由不備の違法がある。債務不履行の時期を特定した上で、その時点の価格等を基準に損害額を再検討させるため、原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
損害賠償請求の起案において、まず「不履行時」を特定すべきであることを示す。履行不能や履行遅滞による填補賠償を求める際、不履行時以降の騰貴価格を基準とするには、416条2項の特別損害の枠組み(予見可能性)が必要であることを裏付ける判例である。
事件番号: 昭和33(オ)897 / 裁判年月日: 昭和36年5月25日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】種類債務の給付において、目的物が特定・引渡しされたとしても、その給付が債務の本旨に従わない不完全なものである場合には、買主は完全な給付を催告し、契約解除や損害賠償を請求し得る。 第1 事案の概要:売主(被上告人)は、買主(上告人)に対し、限定的種類債務に基づき砂利採取機を提供し、特定・引渡しが完了…
事件番号: 昭和30(オ)703 / 裁判年月日: 昭和33年2月13日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】履行不能による損害賠償額を算定する基準となる目的物の価格について、特段の事情がない限り短期間で大幅に騰貴することは考え難い。そのため、近接した時期の認定価格に著しい乖離がある場合、その合理的な理由を明らかにすべきである。 第1 事案の概要:被上告人が第三者Dに不動産を売却したことで履行不能となった…
事件番号: 昭和30(オ)720 / 裁判年月日: 昭和35年4月21日 / 結論: 棄却
不動産の二重売買の場合において、売主の一方の買主に対する債務は、特段の事情のないかぎり、他の買主に対する所有権移転登記が完了した時に履行不能になるものと解すべきである。