判旨
行政処分の取消訴訟において、処分庁は処分の適法性を基礎付ける法律要件について主張立証責任を負うが、相手方が争わない事項についてまで主張立証を尽くす必要はない。また、一審・原審において主張しなかった新たな事実関係に基づく違法事由を、上告審で主張することは許されない。
問題の所在(論点)
行政処分の取消・無効確認訴訟において、処分庁は相手方が争っていない適法要件についても主張立証責任を負うか。また、原審で主張しなかった事実に基づく違法主張を上告審で行うことができるか。
規範
行政処分の適法性に関する主張立証責任は原則として処分庁にあるが、その責任は相手方が争う範囲に限定される。相手方が争う態度を示さず、かつ当事者間において当該要件の存在を前提として訴訟手続が進行した場合には、処分庁が改めてその事実を主張立証する必要はなく、裁判所もその点について判決で説示することを要しない。
重要事実
上告人(所有者)に対し、被上告人(行政庁)が農地法(自作農創設特別措置法)に基づき農地の遡及買収処分を行った。上告人は、自身が不在地主ではなかったこと等を理由に処分の無効を訴求したが、所轄農地委員会の議決(法6条の5第3項)が欠けていた点については原審まで一切争っていなかった。また、上告審に至り、本件土地の一部が「園芸実習用地」であり買収対象外(同法5条1号)であるとの新主張を行った。
あてはめ
農地委員会の議決の存否について、上告人は原審において無効理由として主張せず、むしろ議決があったことを前提に訴訟を進行させていた。このように相手方が争う態度を示さない事項についてまで行政庁に主張立証責任を課すのは失当である。また、土地の園芸実習用該当性については、原審では「小作地か否か」の判断材料として現れたに過ぎず、買収対象外の要件(5条1号)としての主張はなかった。これら原審で主張・判断されていない事由を上告審で新たに持ち出すことは認められない。
結論
処分庁が争いのない要件について主張立証を欠いたとしても違法ではなく、原判決がそれにつき判断を示さなかったことに理由不備はない。上告棄却。
事件番号: 昭和30(オ)542 / 裁判年月日: 昭和31年12月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自作農創設特別措置法に基づく農地の買収において、特定の除外事由を主張することは、当該土地が買収計画樹立当時に農地であることを前提とする。また、原審において主張・判断されていない事項を上告審で新たに主張することは適法な上告理由とならない。 第1 事案の概要:上告人は、本件係争土地が自作農創設特別措置…
実務上の射程
行政訴訟における主張立証責任の範囲を画定した事例。実務上、行政側は処分の適法性を基礎付ける事実について一応の主張立証を要するが、本判決は「争いのある限度」に限定されることを明確にしており、被告側の防御負担を軽減する根拠として機能する。
事件番号: 昭和36(オ)1205 / 裁判年月日: 昭和38年2月22日 / 結論: 棄却
耕作地を小作地と誤認したため保有面積の計算を誤つてした農地買収処分であつても、その瑕疵が明白なものといえない以上、当該買収処分は無効とはいえない。
事件番号: 昭和28(オ)657 / 裁判年月日: 昭和30年4月26日 / 結論: 破棄差戻
登記簿上の所有者を所有者としてした農地買収処分は、真の所有者がこれを知りまたは知り得べき状態にあつたにかからず、不服申立の方法を採らなかつた場合は、当然には無効ではない。